結節性多発動脈炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

結節性多発動脈炎(Polyarteritis nodosa: PAM)とは、血管炎症候群とよばれる疾患群の中の一つです。結節性多発動脈炎の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

結節性多発動脈炎(PAM)とは

結節性多発動脈炎(Polyarteritis nodosa: PAM)は、血管炎症候群とよばれる疾患群の中の一つです。動脈は血管の太さから、大型、中型、小型、毛細血管に分類されます。 結節性多発動脈炎は、この内の中型から小型の血管の動脈壁に炎症や壊死を生じる疾患です。それにより動脈の壁が破壊されたり内腔が狭くなることで、血流の障害や時に動脈瘤が生じます。動脈は全身の諸臓器に分布していますので、腎臓、腸、脳、心臓、皮膚など多彩な臓器に症状を呈します。

日本では男女比は約3:1で男性に多く、平均発症年齢は55歳前後です。「中小動脈の壊死性血管炎で、糸球体腎炎や細動静脈、毛細血管に血管炎を認めず、抗好中球細胞質抗体(ANCA)とは関連しない」と定義されています。つまり、PANは多彩な症状を呈するが、小血管の炎症は伴わず、ANCA関連血管炎とは区別されます。

病理組織学的に、急性期病変としてフィブリノイド壊死が認められることが病理組織学的には重要です。また内膜および中膜の線維化などの瘢痕期病変と急性期病変を同一血管上に伴うという特徴もあります。

なお、これらの変化が皮膚のみに限局し、全身性の血管炎症状に乏しい皮膚型結節性多発動脈炎も存在します。
不明熱の原因検索において、鑑別疾患として念頭におくべき疾患です。

結節性多発動脈炎の原因

肝炎ウイルス(とくにB型肝炎ウイルス)や他のウイルス感染の後に発症する方もいますが、多くの患者さんでは原因は不明です。遺伝性の病気ではありません。

結節性多発動脈炎の疫学的整理

平成28年度にこの疾患で難病の申請をされている方は全国で3305名であり、非常にまれな疾患です。発症する年齢は40~60歳に多く、平均年齢は55歳です。頻度は低いですが、小児期にも発症が見られます。男女比は3:1で男性に多くみられます。

結節性多発動脈炎の症状

全身の小~中等度の太さの筋型動脈が炎症により血流障害を起こすため、全身にわたる様々な症状が出現するのが特徴です。例えば、消化管へ流れる血管に障害が起こると嘔吐・腹痛・血便などがみられ、腸に穴が開くこともあります。他にも、皮膚、神経、腎臓、心臓などに血流障害に基づく症状が生じることがあります。

主な症状は以下の通りです。

(1)全身症状

持続する38℃以上の発熱や、発熱の時期に一致して体重減少もみられます。また、全身の炎症に伴う倦怠感、頭痛、関節痛や筋肉痛・筋力低下などがみられることもあります。関節痛では関節の破壊や変形は伴わず、筋肉痛・筋力低下では筋肉の炎症を示す血清クレアチニンキナーゼ(CK)値の上昇はあまりありません。

(2)皮膚

四肢、特に下腿に網状の暗赤色の皮疹や、結節状の紅斑、皮膚潰瘍、手足の指の壊死などがみられることがあります。皮膚症状は高い頻度でみられますが、結節性多発動脈炎のみならず、特異的な症状には乏しく、疑わしい皮疹があれば、生検による病理組織学的所見が診断に重要な手がかりとなることがあります。皮膚のみに血管炎が限局する皮膚型の結節性多発動脈炎というタイプも存在し、通常の結節性多発動脈炎よりも予後は良好とされています。

 (3)消化管

十二指腸・小腸・大腸へ向かう動脈に炎症が起こり血流障害が生じると、初期症状として食後に顕著な臍周囲の腹痛がみられます。進行すると腸管腸管穿孔をきたすこともあります。他にも、腸管の出血による血便・下血、吐き気や嘔吐などがみられることがあります。また、時に胆嚢や虫垂に炎症が及ぶことがあり、胆嚢炎や虫垂炎に似た腹部の症状で気づかれることもあります。まれに、肝臓や膵臓の梗塞が併発することもあります。

(4)神経

神経に血流を送る動脈に炎症が生じ血流障害が起こると、手足のピリピリと痛むしびれといった末梢神経の知覚障害で始まり、進行すると下垂手や下垂足といった手足に力が入らないといった運動障害がみられることがあります(多発性単神経炎)。これらの末梢神経障害は半数以上の頻度で起こります。発生部位としては、腓骨、脛骨、尺骨、正中、橈骨神経に起こりやすいと言われています。また、神経障害は感覚異常が主体で、約1/3の例で運動障害が伴います。

一方、脳神経の障害は5~10%で比較的少ないとされ、その大部分は高血圧による影響によるものであり、脳動脈の血管炎によるものはまれとされます。脳神経の障害による症状としては、脳出血や脳梗塞による麻痺や意識障害などがあります。

(5)腎臓

50%以上の頻度で腎臓に何らか障害が出現します。腎動脈から小葉間動脈までに至る腎臓内の中小の動脈に炎症が及ぶと、腎血流障害により血圧を上昇させるレニンが分泌され、高血圧となります。また、腎動脈瘤の破裂による腎周囲血腫や、血管炎の勢いが強い場合に多発性腎梗塞がまれにみられることがあります。

なお、毛細血管には炎症が起きないため、糸球体腎炎は生じず、検尿では蛋白尿や血尿はあっても軽度です。もし、検尿でのこれらの異常が目立つ場合は、顕微鏡的多発血管炎や多発血管炎性肉芽腫症、全身性エリテマトーデスなどの他の疾患を考慮する必要があります。

 (6)心臓

頻度は高くありませんが、心臓に血液を送っている冠動脈に血流障害が生じると狭心症や心筋梗塞が起こり、胸痛がみられます。また、深く息を吸った時に増強する胸痛が特徴的な心外膜炎を生じる場合もあります。

(7)眼

眼の動脈の血流障害により、眼底出血や網膜剥離を伴った虚血性網膜症や、虚血性視神経炎などがみられ、視力低下や失明することがありますがまれです。

(8)睾丸

睾丸の圧痛を伴う睾丸炎がある場合があります。但し、欧米では10%超くらいの頻度であるものの、本邦では比較的少ないとされています。

(9)呼吸器

通常、肺に障害はみられません。但し、気管支動脈の病変はまれにみられることがあります。

 (10)その他

体のどの臓器にも血流障害に基づく病変がみられることがあり、乳房、子宮、脾臓などの病変が報告されていますが、あまり多くはありません。

結節性多発動脈炎の検査

ANCAは陰性であり、特徴的な自己抗体もありません。通常、白血球増多や貧血、血小板増多、炎症反応として赤沈値亢進やCRPの上昇がみられます。しかし皮膚型結節性多発動脈炎ではこれらの炎症所見はあまりみられません。

臨床症状からCTやMR血管造影による中動脈の走行異常(途絶や片影不整、動脈瘤など)を確認すること、また皮膚生検でフィブリノイド壊死を確認することが重要です。皮膚結節など、症状のある部位からの生検による病理組織所見の確認が望まれます。

結節性多発動脈炎の診断

上記の症状からこの病気を疑い、診断基準を参考にして診断します。この診断の際に要となるのは、障害臓器の血管の炎症を証明することです。そのためには、神経や筋肉などの障害部位を一部切除する生検が必要になります。生検が困難な場合には、血管造影X線検査や造影CT、MRIなどの画像検査が診断の助けとなります。時に顕微鏡的多発血管炎との区別が難しい場合がありますが、結節性多発動脈炎ではANCAなどの自己抗体が検出されない点が特徴的です。

(1)主要症候

  1. 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上)
  2. 高血圧
  3. 急速に進行する腎不全、腎梗塞
  4. 脳出血、脳梗塞
  5. 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全
  6. 胸膜炎
  7. 消化器出血。腸閉塞
  8. 多発単神経炎
  9. 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疸、紫斑
  10. 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下

(2)組織所見

中・小動脈フィブリノイド壊死性血管炎の存在

(3)血管造影所見

腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞

(4)診断基準

1.確実(definite)  

 主要症候2項目以上と組織所見の存在する例

2.疑い(probable)

(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例
(b)主要症候のうち 1. を含む6項目以上が存在する例

(5)参考となる検査所見

  1. 白血球増加(10,000/μL以上)
  2. 血小板増加(40万/μL以上)
  3. 赤沈亢進
  4. CRP強陽性

(6)鑑別除外診断

  1. 顕微鏡的多発血管炎
  2. 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
  3. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)
  4. 川崎病動脈炎
  5. 膠原病(SLE、RAなど)
  6. IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)

(7)参考事項

  1. 組織学的に1期変性期、2期急性炎症期、3期肉芽期、4期瘢痕期の4つの病期に分類される。
  2. 臨床的に1、2期病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、3、4期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
  3. 鑑別除外診断の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

結節性多発動脈炎の診断の難しさ

 結節性多発動脈炎(PAN)は特異的な検査所見に乏しく、発熱や関節症状などの全身症状のみで発症することも多いため、診断に苦慮することがある疾患です。不明熱の原因疾患といて常に念頭におき、病理組織学的所見を得られる部位からの生検、他の鑑別疾患の除外を進めることが重要となります。

結節性多発動脈炎の治療

結節性多発動脈炎(PAN)の治療もANCA関連血管炎と同様、寛解導入療法と寛解維持療法の2段階にわけて考えます。ただし皮膚型PANはこの限りではありません。
寛解導入には大量ステロイド療法を第一選択として使用し、難治例ではシクロホスファミド(通常間歇静注療法)やアザチオプリンを追加併用します。一般的な治療の詳細は以下の通りですが、個々の患者さんの病態に応じて治療内容を適宜調整することが多いです。

まず、背景にB型肝炎ウイルス感染が有る場合は抗ウイルス療法、血漿交換療法を実施します。B型肝炎ウイルス感染が無い場合は、次の様な大きな流れで治療を行います。

(1)寛解導入療法

腎、腸管、神経など生命に関わる重要臓器の障害を有する重症例では、メチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン500mg~1000mg/日の点滴 3日間連続)を行い、その後、体重1kg当たり0.5~0.8mgの副腎皮質ホルモン(ステロイド)薬のプレドニゾロンを経口で使用します。

2か所以上の重要臓器に障害のある非常に重症な場合には、さらに血漿交換療法も追加することがあります。このような重症な臓器障害が無い場合は、経口プレドニゾロン0.5~1mg/kgのみで治療を開始します。

ステロイド治療で改善がみられない場合は、免疫抑制剤であるシクロフォスファミドを経口もしくは点滴静注にて併用します。その他の免疫抑制薬として、アザチオプリンやメトトレキサートを用いることもあります。他にも、まだ一般的な治療法としては未確立ですが、治療困難例に対して、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬や、抗ヒトCD20抗体のリツキシマブで改善したという報告もあります。

(2)寛解維持療法

寛解導入療法でまず初めに病気の勢いを抑え込み、その後は、症状の悪化がないことを確認しながらプレドニゾロンは徐々に減量し、5~10mg/日を維持量とします。

シクロフォスファミドは血球が少なくなる骨髄抑制や、出血性膀胱炎、無月経などを生じる卵巣機能障害、さらに長期使用で悪性腫瘍の合併などの副作用があるため、半年程度経過したら、免疫抑制剤をシクロフォスファミドから比較的副作用の少ないアザチオプリンへと変更します。

結節性多発動脈炎の経過、予後

治療では1年生存率50%、5年生存率13%と予後は不良でしたが、近年は治療が進歩し、発症3か月程度以内の急性期に適切な治療を受ければ、経過は比較的良好となっています。

予後に関わる因子として、①1日1g以上の蛋白尿、②尿毒症、③心筋症、④腸管病変、⑤中枢神経病変などがあげられており、このうち二つ以上を有すると5年生存率が50%程度とする報告があります。

結節性多発動脈炎で注意すべき点

血管炎は、血管に炎症を起こして血管壁に障害をきたします。血管に負担をかけないように、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症などの動脈硬化の危険を高める要因に気を付ける必要があります。

また、治療によって免疫が抑制されている場合は、感染症にかかりやすくなっていますし、感染症にかかると血管炎の病状を悪化させることもあるため、注意が必要です。規則正しい生活をして、精神的にも肉体的にもストレスを最小限にする生活を心掛けることが重要です。

<リファレンス>

難病情報センタ− 42 結節性多発動脈炎
血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改定版)
血管炎・血管障害診療ガイドライン (2016年改定版)
難治性血管炎の医療水準・患者QOLに資する研究 2015
KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa PAN)

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