月経前症候群|疾患情報【おうち病院】
記事要約
月経前症候群とは、月経前3~10日の黄体期の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。月経前症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
月経前症候群とは
月経前症候群(Premenstrual Syndrome : PMS)とは、月経前3~10日の黄体期の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。症状として、身体的症状(下腹部膨満感,疲労感,腰痛,頭痛,浮腫,乳房緊満感、めまいなど)や、精神症状(気分の変動,易怒性,抑うつ気分など)がみられます。精神症状が主体で強い場合は月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder : PMDD)と呼びます。
月経前症候群の原因
月経前症候群の原因の詳細は不明ですが、様々な要因が関与して症状を引き起こしていると考えられてます。
まず、月経には女性ホルモンの変動が関係しており、排卵後から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増え、黄体期の後半に分泌が急激に低下し月経となります。月経前症候群では、月経周期に関連して症状があることから、この女性ホルモンの変動が関係していると考えられています。
また、セロトニンなどの脳内の神経伝達物質も関係しているとされています。セロトニンはうつ病の患者で活性が低下するといわれている物質です。プロゲステロンの低下がセロトニンの低下を引き起こすため不安やイライラといった精神症状を起こすと考えられています。
また、プロゲステロン代謝物(アロプレグナノロン)の低下が脳内GABA受容体活性を低下させ、精神症状を引き起こすとも考えられています。
その他、ビタミンB6はドパミンとセロトニン生成の補酵素であるため、ビタミンB6の低下も症状を悪化させると考えられています。
月経前症候群の疫学的整理
日本では月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を認めていると言われています。そのうち社会生活困難を伴う月経前症候群(PMS)の頻度は5.4%、月経前不快気分障害(PMDD)の頻度は1.2%と報告されています。これらの疾患は幅広い年齢で認めていますが、日本では思春期にやや多いという報告もあります。
月経前症候群の症状
月経前症候群の症状は多彩で、人によりさまざまな症状を呈します。
身体症状として主に腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り、便秘や下痢など精神神経症状として主に情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、食欲の変化などがあります。
月経前症候群の診断
発症時期と月経周期との関連、症状から診断を行います。
月経前症候群は米国産婦人科学会の診断基準【表1】、精神的な症状が強い月経前不快気分障害については米国精神科学会の診断基準【表2】を用います。
また、身体診察や検査を行い、うつ病などの精神疾患や、片頭痛、喘息などの基礎疾患の月経前増悪に伴う症状ではないかも確認していきます。
受診するときには、数回の月経周期における症状とその程度、加えて月経開始日と終了日をカレンダーやアプリなどに記録し持参すると月経周期との関連性を確認するのに役立ちます。
【表 1】月経前症候群 診断基準(米国産婦人科学会)
過去 3 回の連続した月経周期のそれぞれにおける月経前 5 日間に、下記の情緒的および身体的症状のうち少なくとも 1 つが存在すれば月経前症候群と診断できる*。
情緒的症状
- 抑うつ
- 怒りの爆発
- 易刺激性
- いらだち
- 不安
- 混乱
- 社会的引きこもり
身体的症状
- 乳房緊満感・腫脹
- 腹部膨満感
- 頭痛
- 関節痛・筋肉痛
- 体重増加
- 四肢の腫脹・浮腫
*これらの症状は月経開始後 4 日以内に症状が解消し、少なくとも 13 日目まで再発しない。いかなる薬物療法、ホルモン摂取、薬物やアルコール使用がなくとも存在する。その後の 2 周期にわたり繰り返し起こる。社会的、学問的または経済的行動・能力に、明確な障害を示す。
(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020より出典)
【表 2】月経前不快気分障害の診断基準(DSM-5)
A. ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも 5 つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。
B. 以下の症状のうち、1 つまたはそれ以上が存在する。
(1)著しい感情の不安定性 (例:気分変動: 突然悲しくなる、または涙もろくなる、または 拒絶に対する敏感さの亢進)
(2)著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
(3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
(4)著しい不安、緊張、および/または “高ぶっている” とか “いらだっている” という感覚
C. さらに、以下の症状のうち 1 つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準 B の症状と合わせると、症状は 5 つ以上になる。
(1)通常の活動 (例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
(2)集中困難の自覚
(3)倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
(4)食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
(5)過眠または不眠
(6)圧倒される、または制御不能という感じ
(7)他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または腫脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる” 感覚、体重増加
D. 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする (例: 社会活動の回避: 仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。
E. この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない (これらの障害はいずれも併存する可能性はある)。
F. 基準Aは、2 回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)。
注:基準 A ~ C の症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。
(産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020より出典)
月経前症候群の治療
(1) 非薬物療法
第一選択治療には、カウンセリング・生活指導・運動療法などがあります。
認知行動療法として、症状日記を記録し、症状の頻度や出現する時期などを理解し把握することで、症状を対処しやすくなります。生活習慣の改善として、アルコール・カフェイン・タバコを控え、規則正しい生活リズムとし、適度な有酸素運動を行います。カルシウム、ビタミンB6、マグネシウムを積極的に摂取することで症状が緩和する可能性もあります。ストレスを減らすため、症状が重い時期には仕事の負担を減らすことが症状緩和に繋がる場合もあります。
(2) 薬物療法
・ホルモン療法
低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)を使い、排卵を抑え女性ホルモンの変動を減らすことで症状を軽快させます。重大な副作用として稀に血栓症が起きることがあるので、40歳以上の方・喫煙者や既往歴によっては血栓症のリスクが高く適応とならない場合もあります。
・抗うつ剤
イライラ、抑うつなどの精神症状に対してSSRIs(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用します。この薬は欧米ではPMS、PMDDの第一選択薬となっています。黄体期のみに内服する方法や継続して内服する方法があります。精神症状が強い場合には、精神科や心療内科で治療を行うこともあります。
・対症療法
痛みに対しては鎮痛剤、むくみや乳房緊満感に対して利尿剤を使用します。
・漢方療法
漢方医学的な診断に基づき、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散、桃核承気湯、五苓散などの漢方薬が使われます。
月経前症候群の相談目安
上記のとおり、月経前症候群は症状が軽い方を含めると多くの方に症状を認めています。「6.月経前症候群の治療」の(1)非薬物療法にあるようなセルフケアで改善が見られない場合、仕事や学校・家事などの社会生活・日常生活に支障を認める場合には、婦人科で相談してください。
<リファレンス>
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020;日本産科婦人科学会
女性の健康推進室 ヘルスケアラボ;厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修
白土なほ子 PMS、PMDDの診断と治療−他科疾患との鑑別-;昭和学士会誌 第77巻 第4号 p360−366,2017
長塚正晃 月経前症候群 9.E.婦人科疾患の診断・治療・管理;日産婦誌61巻12号 pN657-N663,2009年12月