原発性腋下多汗症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

原発性腋下多汗症とは、特別な原因がないのにワキに多量の汗をかく病気です。原発性腋下多汗症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

原発性腋下多汗症とは

原発性腋下多汗症とは汗の量が多くなる原因がないにも関わらず、多量のわき汗に悩まされる疾患です。日常生活に支障をきたすほどの多量のわきの汗が、明らかな原因がないまま6か月以上みられ、日常生活に支障をきたすような状態となります。

腋窩は精神性発汗と温熱性発汗が同時に起こる特殊な環境下にあり、左右対称性に腋窩の多汗がみられ、下着やシャツにしみができるほどになります。若い年代に多いことから精神的な苦痛を受けているにもかかわらず、医療機関は受診しにくく、QOL(Quality of life: 生活の質)の低下が問題となります。受診しても有効で手軽な治療に乏しかったのですが、近年、発汗の原因となるエクリン汗腺に作用し、発汗を抑制する外用剤(ソフプロニウム臭化物ゲル:エクロックⓇゲル5%)が保険適用となりました。これまで良い方法がないとあきらめていた潜在的な患者さんが、積極的に治療できるようになることが期待されます。

多汗症の分類

「原発性腋下多汗症」はいわゆる汗が多い、「多汗症」の中のひとつです。多汗症は、全身の発汗が増加する全身性多汗症と体の一部に限局して発汗量が増加する局所性多汗症に分類されています。

全身性多汗症には原発性(特発性)と続発性があります。全身性の場合に原因続発性には結核などの感染症、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの内分泌代謝異常、神経疾患や薬剤性の全身性多汗症を含みます。神経疾患では大脳皮質の障害により発汗機能亢進や低下が認められます。その他、脳梗塞で麻痺側の発汗量が増加する場合、体温中枢のある視床下部を含む間脳の障害や脊髄損傷による自律神経障害などによって多汗が起きる場合もあります。

局所性多汗症が好発するのは、腋下のほか、手掌、足底、顔面などです。限局した部位から両側性に過剰な発汗を認めます。全身性と同じように、原発性(特発性)と続発性があります。局所性多汗症では、Frey 症候群(味覚性多汗症)は耳下腺手術や外傷の後摂食時に、耳前部の発赤を伴う続発性局所性多汗症の一つです。これは、損傷を受けた副交感神経が発汗神経に迷入することにより発症すると考えられています。腋下の場合は通常、特に原因のない原発性多汗症です。

原発性腋下多汗症の原因

原発性腋下多汗症では家族歴がみられることがあり、また、人種差もみられることから、遺伝的要因の関与が示唆されます。しかし、その原因は明らかではありません。

疫学的整理

疫学については報告が複数あります。アメリカ合衆国の全国的な疫学的調査は一番大規模なもので、合衆国全人口のうち 2.8%が原発性多汗症に罹患しており、その中でも腋窩多汗症に限っては平均年齢 37 歳、平均発症年齢22 歳、18~54 歳にピークがあり、12 歳以下の有病率が一番低いとされます。 平成 21 年度厚生労働省難治性疾患克服研究の特発性局所多汗症研究班がまとめた全国疫学調査において、本邦の原発性局所多汗症の有病率と発症年齢は、腋窩では5.75%、発症年齢 19.5 歳、頭部で 4.7%、発症年齢 21.2 歳であり、米国の調査より有病率が高いとされます。さらに患者の医療機関への受診率は 6.3%であり、全体の患者の 47.8%が制汗作用のないデオドラント剤を使用していることが判明しました。

原発性腋下多汗症の診断と重症度

診断には自覚症状が重要です。以下の診断基準があり、6症状のうち2項目以上当てはまる場合を「原発性腋下多汗症」と診断します。

原発性腋下多汗症の診断基準(2項目以上で診断)

  • 最初に症状がでるのが25歳以下であること
  • 左右両方で同じように発汗がみられること
  • 睡眠中は発汗が止まっていること
  • 1週間に1回以上多汗の症状がでること
  • 家族にも同じ疾患の方がいること
  • わき汗によって日常生活に支障をきたすこと

また、Struttonらは原発性局所多汗症の重症度を自覚症状により、以下の4つに分類しています。

原発性局所多汗症の重症度

  1. 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
  2. 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
  3. 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
  4. 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

3.4.を重症の指標としています。発汗量測定法を用いて重症度を決める方法もありますが、簡便な定性的測定のみでも日常診療では十分対応できます。

診断基準と照らし合わせれば、問診と臨床症状から原発性多汗症の診断は比較的容易に行なえます。

原発性腋下多汗症の治療

これまで外用剤としては塩化アルミニウムしか選択がなく、手足にはイオントフォレーシスが有効とされてきました。重症な場合にはA型ボツリヌス菌毒素局注療法、胸腔鏡下胸部交感神経遮断術などがありますが、手軽で効果のある治療に乏しく、市販の制汗剤などで我慢していた方も多いと思われます。新たに保険適用となった外用剤は試みる価値があります。

(1)外用療法

1)ソフプロニウム臭化物ゲル(エクロックⓇゲル5%)

 2020年に日本ではじめて健康保険適用が認められた原発性腋下多汗症の外用薬です。

多汗症の原因となる汗はエクリン汗腺から分泌されます。エクリン汗腺は交感神経により調節されており、アセチルコリンが感染の受容体を刺激して発汗を誘発します。本剤の有効成分であるソフプロニウム臭化物はこの部位に反応してコリン作動性反応を阻害し、発汗を抑えます。 

1日1回、腋下に直接塗布するタイプであり、かぶれなどに注意する必要はありますが、大変使いやすい薬剤で効果も期待されます。緑内障や前立腺肥大のある方は使用できません。

2)塩化アルミニウム外用液

 塩化アルミニウム溶液は腋下のほか手掌、足底など局所多汗症の治療に長い間用いられてきました。単純塗布のほか、手掌の中等症、重症例については密封療法を行うなどの工夫で効果をあげることができます。外用で手軽であり、あらゆる年齢に対応可能です。副作用としては刺激性皮膚炎があるものの、外用の休止や保湿薬、ステロイド外用といったことで継続した加療が可能です。病院の院内製剤として処方されており、保険適用はありません。

(2)その他の治療法

1)イオントフォレーシス療法

手足の多汗症に用いられています。電流を種々の液体中で通電することにより発汗量を減少させます。電流を通電することにより生じる水素イオンが汗孔部を障害し狭窄させることにより発汗を抑制すると考えられています。手足については保険適用であり、医療機器として購入し外来診療に用いる方法と、簡易的に家庭で用いるために患者が個人輸入する方法の2種類があります。

2)A 型ボツリヌス毒素局注療法

本邦においても 2012 年 11 月より重度腋窩多汗症に対して保険適用となっています。

A型ボツリヌス毒素は精製度が高く、効力や作用時間が最も優れており、コリン作動性神経の接合膜からのアセチルコリン放出を抑制する作用があります。以前から眼瞼痙攣や斜視の治療に使用されていますが、1996 年 Bushara らは腋窩多汗症に有効であることをはじめて報告し、その後掌蹠多汗症にも応用されるようになりました。投与量や有効期間にばらつきがあり、重症度に合わせて投与量を考慮する必要があります。

3)胸腔鏡下胸部交感神経遮断術

重症例には行われてきましたが、代償性発汗をはじめとした重篤な合併症の存在も無視できず、慎重な説明と同意の上で選択する必要があります。

4)その他

神経ブロック、レーザー療法、内服療法(抗コリン薬)、精神(心理)療法などがありますが、優位なエビデンスが少なくガイドラインにおいても強く推奨されてはいません。

まとめ

皮膚科領域の疾患で広く用いられているQOL(Quality of life:)評価というものがあります。このスコアをみると、腋下多汗症や手掌多汗症では、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬といった広範囲に身体に皮疹をもつ方よりもスコアが高く、日常生活に不便を感じているという結果となっています。

日常に与える影響が大きいにもかかわらず、これまで有効な治療法に乏しいため、病院は受診せずに市販の制汗剤などを使っていた方が多いと思われます。生活の質を上げる、効果の期待される手軽な外用薬が使えるようになったので、気軽に医療機関に相談してください。

<リファレンス>

原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版 日本皮膚科学会
ワキ汗治療ナビ(科研製薬)

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