原発性免疫不全症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
原発性免疫不全症とは、生まれつき免疫機能に何らかの欠陥がみられる稀な遺伝疾患群の総称です。 原発性免疫不全症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
原発性免疫不全症とは
原発性免疫不全症とは、生まれつき免疫機能に何らかの欠陥がみられる稀な遺伝疾患群の総称です。障害される免疫細胞、補体の種類、部位、程度などにより、おおよそ400種類以上の疾患分類があるといわれています。
感染に対する免疫力の低下により、乳児期より肺炎、中耳炎、膿瘍、髄膜炎などを反復し、また感染は重症化しやすく、時に致死的となることもあります。感染の反復などにより、後に難聴や気管支拡張症といった後遺症が問題になることもあります。
原発性免疫不全症の疫学的整理
基本的には疾患により異なりますが、全体としては1万の出生に対して毎年1名ほどの割合でみられると考えられています。
障害部位により、大きく以下の6つに病型を分類することができます。
- B細胞の異常
- T細胞の異常
- B細胞とT細胞の異常
- 食細胞の異常
- 補体の異常
- その他
その中で、B細胞の異常は一番頻度が高い病型といわれています。
疾患について取り上げると、X連鎖型無ガンマグロブリン血症と慢性肉芽腫症は、日本ではおおよそ500人から1000人ぐらいと、比較的高頻度でみられています。
原発性免疫不全症の原因
疾患の多くは遺伝子の異常が同定されています。
International Union of Immunological Sciencesは、2019年の時点で、354種類の先天性の免疫以上のうち、430種類の遺伝子異常が同定されており、細胞レベルではおおよそ80%の病態が解明されていると報告しています。
ほとんどの原発性免疫不全症は、X連鎖劣性遺伝の形式(母親が保因者である場合、その男児は2分の1の確率で発症)か、もしくは常染色体劣性遺伝の形式(父親と母親双方が保因者である場合、その子が4分の1の確率で発症)をとります。まれな例として、突然変異の場合には、以後常染色体優性遺伝の形式(患者の子の2分の1が発症)をとっていくような例もあります。
また、一時的な免疫系の未熟性によるものと考えられているような疾患も存在します(例えば、乳児一過性低ガンマグロブリン血症、慢性両性好中球減少症など)。
原発性免疫不全症の症状
患者の特徴として、以下のような状態がよくみられます。
- 反復する感染症(肺炎、気管支炎、副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎、皮膚感染症、鵞口瘡など)
- 貧血や血小板減少といった血液像
- 慢性的な消化管症状(例えば食欲低下、嘔吐・下痢など)
- 発育不良
自己免疫疾患の合併(例えば全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、1型糖尿病など)
また、正常の免疫機能保持者には通常みられない以下のような感染症の傾向は、原発性免疫不全症の比較的典型的な特徴といえます。
- 感染症の遷延
- 難治性
- 敗血症への移行や臓器内膿瘍形成など(重症化しやすい)
- 通常日和見感染の際にしかみられないような病原体による感染症の発生
易感染性の程度は疾患の種類等より異なり、生後数年間は特に徴候が目立たないような例もあれば、生後間もない時期から感染症を発症し診断されるような例もあります。
感染症の病原体は、免疫機能の欠陥の部位によって、異なる傾向がみられます。例えば、好中球の機能やB細胞(抗体産生)に問題がある場合には、細菌感染が多く、T細胞に問題がある場合には、真菌・ウィルス感染が多いと考えられています。
病型によっては、特に易感染性は示さず、炎症・湿疹・自己免疫症状・リンパ節腫脹が主な徴候としてみられるようなタイプも存在します。
遺伝子異常の種類によって、単一の病態が現れるものや、症候群のようにその遺伝子の異常をベースとして複数の病態がみられるものなど、病状は非常に様々ですが、以下のような分類は、病態の理解に役立ちます。
【障害部位による分類】
・B細胞の異常(胎盤移行抗体がなくなる生後半年から2歳ごろに発症する傾向あり):
選択的Ig A欠損症、分類不能型免疫不全症、
AID/UNG欠損を伴う高IgM症候群、CD40リガンド欠損を伴う高IgM症候群
免疫グロブリンが正常な選択的抗体欠損症
乳児一過性低γグロブリン血症、X連鎖無γグロブリン血漿 など。
・T細胞の異常(生後早期から発症する傾向あり):
慢性皮膚粘膜カンジダ症、ディジョージ症候群、X連鎖リンパ増殖症候群、
ZAP-70欠損症 など。
・B細胞とT細胞の異常:
毛細血管拡張性運動失調症、軟骨毛髪形成不全症、
T細胞機能の低下及び免疫グロブリン正常または高値を示す複合免疫不全症
高IgE症候群、MHC抗原欠損、重症複合免疫不全症、
ウィスコット-アルドリッチ症候群 など。
・食細胞の異常(生後早期から発症する傾向あり):
チェディアック-東症候群、慢性肉芽腫症、白血球接着不全症、
メンデル遺伝方マイコバクテリア易感染症、周期性好中球減少症 など。
・補体/補体調節タンパク/補体レセプター欠損による異常:
欠損部位により異なった臨床像がみられます。
関連記事:遺伝性血管性浮腫
【障害の程度による分類】
・欠乏:
その免疫機能や免疫細胞・免疫補助タンパクなどの物質は存在するが、数が少なくなっている場合。
・欠損:
その免疫機能や免疫細胞・免疫補助タンパクなどの物質が全く存在しない場合。
・機能不全:
その免疫機能や免疫細胞・免疫補助蛋白などの物質は存在しているが、機能が低下している、あるいは機能しない場合。
【遺伝形式による分類】
・X連鎖型(男児にのみ発症):
X連鎖無ガンマグロブリン症、X連鎖重症複合免疫不全症、
X連鎖高Ig M症候群、X連鎖慢性肉芽腫症、X連鎖リンパ増殖症候群
CD40リガンド欠損を伴う高IgM症候群
ウィスコット・アルドリッチ症候群、プロパージン欠損 など。
・常染色体劣性遺伝(性別は関係なく発症):
AID/UNG欠損を伴う高IgM症候群、CD40欠損を伴う高IgM症候群
ZAP-70欠損症、毛細血管拡張性運動失調症、軟骨毛髪形成不全症
MCH抗原欠損
T細胞機能低下/免疫グロブリンは正常または高値の複合免疫不全症(X連鎖型もあり)
高IgE症候群(常染色体優性遺伝形式もあり)
重症複合免疫不全症(X連鎖型もあり)、チェディアック-東症候群
慢性肉芽腫症(X連鎖劣性形式もあり)、白血球接着不全症
メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(常染色体優性遺伝形式もあり)
C1欠損/C2欠損/C3欠損/C4欠損/C5・6・7・8・9欠損
MBL欠損、B因子欠損、崩壊促進因子欠損、CR3欠損 など。
・de novo変異(突然変異)
ディジョージ症候群 など。
・常染色体優性遺伝(性別は関係なく発症)
周期性好中球減少症、C1インヒビター欠損 など。
・常染色体共優性
I因子欠損、H因子欠損 など。
原発性免疫不全症の診断
まず、診断のためには以下の情報が有用です。
- 既往歴
- 家族歴
- 身体診察(それぞれの疾患に特徴的な徴候が現れていないかなどを確認します)
また、具体的に実施される臨床検査として、主には以下のようなものがあります。
- 血液検査:免疫細胞や抗体の量の異変がないかなどを調べます。
- フローサイトメトリー法:免疫細胞の機能などを調べます。
- 遺伝学的検査:遺伝子変異などを調べます。
他には家族歴がある、あるいは原発性免疫不全症と診断された子供がある場合には、妊娠時に羊水・血液・胎盤の検体を用いて遺伝学的検査を行うこともあります。その場合、出生前に診断がなされれば、出生後に備えて治療の準備をすることができるという有益性があります。
原発性免疫不全症の治療
まず治療の目的として、次の2つの点をそれぞれ考慮する必要があります。
- 現存する感染症のコントロール
- 将来の感染症の予防
そして、疾患の種類とその重症度に合わせて、以下のような内容の治療が行われます。
- 抗菌薬または抗ウィルス薬の現存の感染症への投薬または、発症予防のための投薬
- 免疫系統の機能を高める投薬(免疫グロブリン製剤・インターフェロンγ製剤)
- 各種造血製剤の投与(減少している血球に合わせて薬剤を選択)
- 幹細胞移植(臍帯血移植・骨髄移植:移植された造血幹細胞が患者体内において正常な免疫系細胞となることを期待して行われます)
- 遺伝子治療
比較的軽症例においては、病状にあった適切な投薬治療による管理が中〜長期に渡って行われることが多く、重症例の場合には、早期に根治療法として幹細胞移植の治療が導入されます。遺伝子治療については研究段階であり、疾患によっては検討されるような状況です。
原発性免疫不全症の合併症
感染症は重症化しやすく、正常面免疫者ではあまりみられないような膿瘍形成も容易に起こることがあります。そのような場合には、膿汁を除去し治癒を促進するような外科的な処置が必要にあることもあります。
病型によっては患者の免疫機能の状態が影響し、悪性腫瘍が発生しやすくなるような病型もあります。あるいは、血液疾患を併発するような病型も存在します。
遺伝疾患であるため、他臓器の先天異常を伴う病型もあります(例えばDiGeorge症候群など)。
原発性免疫不全症の予後
基本的には、疾患の種類やその程度により違いがみられます。例えば、重症複合免疫不全症のような重症例に対しては、早期の根治治療(造血幹細胞移植)を行わなければ、2歳以上の生存は難しいともいわれています。また、軽症例では適切な投薬治療により感染予防・コントロールが可能となり、普通の日常生活をも可能となることが多い一方で、慢性肉芽腫症のように、青年期以降は同じ治療による病状の管理が難しくなってくるような疾患もあります。
原発性免疫不全症の予防・保健指導・生活支援
稀な疾患であるだけに、患者やその家族のその疾患への理解度が、その予後やQOLに大きな影響を与えるといえます。そのために専門家が疾患に関する正しい情報の提供を行い、該当者の理解の手助けをすることは、まず非常に大切なことです。
疾患や病状を把握することで、感染症や後遺症の発症を予防したり、遅らせたりする努力をすることができます。感染症は一旦発症すると、障害臓器に重大なダメージが生じ、生命に危険が及んでしまうあるため、感染症を可能な限り予防するために、まず日常生活について以下のような指導を行うことが肝要です。
- 手が汚れた際にはすぐ洗浄する
- 口腔内ケアを怠らない
- 健康的な生活を心がける:適度な運動、バランスのとれた食事、十分な睡眠時間の確保など
- 生ものの摂取は避ける
- 滅菌されていない水分の摂取は避ける
- 人混みを避ける
- 感染症症状が明らかな人や、感染症の疑いがある人との接触を避ける
また、疾患によっては接種することの危険なワクチンもあるため、患者にとってどのワクチンが安全であるか、確認しておくことも大切です(生ワクチン(例えばロタウィルスワクチン、水疱瘡ワクチン、経口ポリオワクチン、麻疹ワクチンなど)の接種をしないほうが良い病型があります)。
他には、例えば日光照射に制限を設けた方が良いなど、疾患ごとに異なる注意点もあるため、それぞれの疾患にあった指導を提供しておくことも大切です。
【精神的・社会的支援】
家族が診断を受けた場合には、患者とその家族にとって必要な精神的・社会的な支援も同時に提供されるべきです。稀な遺伝疾患であれば、子供が成長する中で将来に向けて大きな不安を抱えることになるかもしれません。またその家族が何か罪悪感に苛まれてしまうようなこともあるかもしれません。そのような場合には、専門家による遺伝カウンセリングが助けになることがあります。患者やその家族には、そのような窓口があるという情報を、提供しておくことが大切です。
原発性免疫不全症の海外と日本の動向
アメリカ・台湾では、重症複合免疫不全症(SCID: Severe Combined Immunodeficiency 原発性免疫不全症の中でも最も重症の病型といわれる疾患)の新生児マススクリーニング検査が行われています。新生児期にその検査を行う意義は、乳児期から行われるワクチン接種開始前にこの疾患を診断し、その児にとって危険な種類のワクチン(生ワクチン)の接種を回避できる、という点にあります。
日本では、SCIDのスクリーニング検査は、これまでの公費による新生児マススクリーニング検査(内分泌異常の2疾患と代謝異常の18疾患)に含まれていませんでしたが、2020年より自己負担で検査を受けることが出来る医療機関が増えてきています。なお、検査は生後2ヶ月まで(乳児が生ワクチンの接種を開始する前)に行われることが推奨されています。
<リファレンス>
難病情報センター, 原発性免疫不全症候群(指定難病65), 2021-09,閲覧日2021-11-11
Center for Disease Control and Prevention, Genomics & Precision Health, Primary Immunodeficiency (PI), 2020-04-17, 閲覧日2021-11-11
Boston Children’s Hospital, Conditions, Primary Immunodeficiency in Children-Diagnosis & Treatments, 閲覧日2021-11-11
大阪母子医療センター, 拡大マススクリーニング検査の実施について,閲覧日2021-11-11
Mayo Clinic, Primary Immunodeficiency, 2020-01-30, 閲覧日2021-11-11