進行性骨化性線維異形成症 (FOP)|疾患情報【おうち病院】
記事要約
進行性骨化性線維異形成症 (Fibrodysplasia ossificans progressiva: FOP)は骨系統疾患の一つで、小児期から線維性組織(筋膜、腱、靭帯など)が徐々に硬くなり、骨化していく疾患です。進行性骨化性線維異形成症 (FOP)の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)とは
進行性骨化性線維異形成症 (Fibrodysplasia ossificans progressiva: FOP)は骨系統疾患の一つで、小児期から線維性組織(筋膜、腱、靭帯など)が徐々に硬くなり、骨化していく疾患です。
FOPでは主に、首、背中、肩、手足の線維性組織に骨化が起こります。心臓など内臓の筋肉では骨化が起こらないとされています。また、先天的に足の親指が短く、曲がっているという特徴があります。
この異所性骨化※により手足の関節が動かしにくくなり、徐々に関節強直が進行すると関節が機能しなくなり障害が生じることが本症の主症状です。その他、背中の筋肉が骨化していくと背中が曲がったり、口周囲の筋肉や呼吸に関する筋肉が骨化し動きが悪くなると、口を開けることが困難になったり、呼吸が障害されることになります。異所性骨化は突然始まることが多く、乳児期〜学童期にかけて骨化が始まるといわれています。
遺伝子の異常が原因ですが、どのようにして本症が発症するのかといった詳しいことはまだわかっていません。治療としては、根本的な治療法が確立していないため、消炎鎮痛剤やステロイドを用いた対症療法が中心になります。軽症であれば、骨化のペースが落ち着き通常の生活を送れる患者さんもいます。重症の場合には、自立歩行が困難になり車椅子を用いた生活や寝たきりになることもあります。
※ 異所性骨化とは、本来は骨組織ではない部分が骨化することをいいます。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の原因
FOPは、骨形成蛋白受容体の一種であるACVR1(別名 ALK2)と呼ばれる遺伝子の一部に異常があることが原因となって発症することがわかっています。しかしこの遺伝子の異常がどのようにして本症を引き起こすのかはまだわかっていません。遺伝形式は常染色体優性遺伝とされていますが、家族性に複数発症していることはまれで、多くは遺伝子の突然変異により発症しています。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の疫学的整理
FOPの有病率は地域差や人種間での差はないとされ、約200万人に1人の割合と稀な疾患です。日本国内での患者数は80名ほどと報告されています。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の症状
先天性の外表異常として、左右対称に足の親指の外反母趾様変形があります。これは多くのFOP患者に認められます。そのほかに、手の短母指、短中手骨、小指の弯曲(内側に曲がる)、足の短母趾や母趾欠損などの異常を認めることがあります。
異所性骨化は乳児期〜学童期にかけて始まることが多いといわれています。異所性骨化が起こる前にはフレア・アップと呼ばれる症状が現れます。フレア・アップは皮下が腫れ、腫瘤の様なものができることをいいます。フレア・アップの部分は初めは柔らかいものの、徐々に硬くなったり骨化していきます。局所の熱を持ったり、痛みを伴うこともあります。
フレア・アップは外傷や手術侵襲、筋肉内注射がきっかけで起こることもあります。これらの刺激を受けた場所にフレア・アップが起き、異所性骨化が生じる場合があることが知られています。またインフルエンザ感染などのウイルス感染によってもフレア・アップが誘発されることもあります。しかし、フレア・アップが起きても異所性骨化につながらない場合もあります。
異所性骨化は、首、肩、背中、股関節周囲から始まり、末梢に広がっていく傾向がありますが、心臓や内臓の筋肉は骨化しないとされます。
異所性骨化により、関節や体幹が硬くなり可動性が低下すると手足の機能障害、歩行障害、背中の変形などが起こります。口周囲の筋肉が骨化し動きが悪くなると、口を開けることが困難(開口障害)になり食事の摂取に支障をきたすことがあります。18歳までに約7割の患者さんに開口障害が生じるとされます。また呼吸に影響する筋肉に骨化が生じると、呼吸が障害されることもあります。
この他に、髪の毛が薄くなる、耳が聞こえにくくなるといった症状を認めることがあります。また開口障害により口腔ケアが十分にできない場合があり、虫歯や歯周病になることもあります。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の診断方法
足の母趾に先天性の形態異常(短縮や変形)を認めた場合には、FOPの可能性を考慮する必要があります。また、FOPを疑った場合には、診断のために生検などの外科的侵襲を加えることは、フレア・アップや異所性骨化を招く可能性があり、避ける必要があります。
近年、本症が広く認知されるようになったため、先天性の足の母趾の異常を見た段階で本症を疑い、生検などの侵襲的検査を行わず、遺伝子検査によって診断されるケースが増えてきています。
<診断基準> 難病情報センターHPより引用
Definite、Probableを対象とする。
進行性骨化性線維異形成症の診断基準
A.症状
1)進行性の異所性骨化(以下の特徴を満たす。)
- 乳児期から学童期に初回のフレアアップ(皮下軟部組織の炎症性腫脹)を生じ、その後引き続いて筋肉、腱、筋膜、靱帯などの軟部組織が骨化する。フレアアップは外傷(手術などの医療行為を含む)に引き続いて生じることが多いが、先行する外傷がはっきりしないこともある。フレアアップは移動性のこともある。
- 骨化を生じる順序は、背側から腹側、体幹から四肢、頭側から尾側が典型的で、多くは頭部か背部に初発する。
- 横隔膜、舌、外眼筋、心筋、平滑筋に骨化は生じない。
2)母趾の変形・短縮(以下の特徴を満たす。)
- 変形・短縮は生下時から認める。
- 変形としては、外反母趾が多く、第一中足骨遠位関節面が傾いていることが多い。
- 短縮は、基節骨、第一中手骨に認める。
- 年齢とともに基節骨と末節骨が癒合することがある。
3)その他の身体的特徴
- 生下時から認める頸部可動域制限の頻度は高い。X線では棘突起の肥大、高い椎体高、椎間関節の癒合を認める。
- 頻度は高くないが、母指の短縮、斜指、太い大腿骨頚部、脛骨近位内側の骨突出を認めることがある。
B.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
外傷性骨化性筋炎、進行性骨性異形成症、オールブライト(Albright)遺伝性骨異栄養症
C.遺伝学的検査
ACVR1遺伝子の変異
<診断のカテゴリー>
Definite:Aのうち1項目以上を満たしBの鑑別すべき疾患を除外し、Cを満たすもの。
Probable:Aのうち1)及び2)を満たしBの鑑別すべき疾患を除外したもの。
Possible:Aのうち1項目以上。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の治療
現在のところ、FOPを根治させる治療法は確立されていません。
対症療法として、フレア・アップの疼痛や炎症に対して、消炎鎮痛剤やステロイドが使用されています。
異所性骨化を抑制する目的でビスホスホネート製剤などが使用されることもありますが、明らかな有効性は確立されていません。
治療法は確立されていないものの、新薬の候補となる薬品の治験が2017年より開始されています。FOP患者さん由来のiPS細胞を使っての研究で、効果が期待できる候補物質として見出されたラパマイシンという既存の免疫抑制剤による医師主導治験になります。
この他にも、国内外で新薬候補となる薬品の開発、治験が進んでいます。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)の経過、予後
FOPの経過は重症度によって異なります。軽症な患者さんでは通常の日常生活を送ることができる場合もあります。しかし一般的には、異所性骨化は進行し、年齢と共に関節が硬くなり機能障害が生じます。歩行障害が生じ杖や車椅子が必要になったり、寝たきりになることもあります。
呼吸障害の程度や開口障害による栄養摂取困難が寿命に影響を与えますが、栄養管理などの進歩により高齢まで生存できる患者さんもいます。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)で注意すべき点
【フレア・アップを予防するため】
- 誘因となる外傷に注意する必要があります。転倒、転落などにより筋肉にダメージが加わり異所性骨化を引き起こします。歩きにくくなってきた場合には、外傷を防ぐためにも杖や車椅子の利用が推奨されます。
- インフルエンザなどのウイルス感染によってもフレア・アップが起こる頃がありますので、日頃から感染症予防を行うことが大切です。
- 筋肉内注射も避けるべきとされています。しかし、皮下注射や静脈注射は問題ないといわれています。したがって、皮下注射の予防接種は注意しながら行うことができます。
- 開口障害のために口腔ケアが十分できないことがあり、虫歯や歯周病の原因となります。またその治療も開口障害のため難しくなりがちです。様々な形状の歯ブラシなどが市販されていますので、それらの使用が推奨されます。
歯科検診・治療にあたっては、無理に大きく口を開けるような操作で異所性骨化を引き起こすことがあります。FOPの知識がある歯科医で治療を受けることが推奨されます。
<リファレンス>
難病情報センター 進行性骨化性線維異形成症 (FOP)(指定難病272)
難病情報センター 進行性骨化性線維異形成症 (FOP)(指定難病272)
小児慢性特定疾病情報センター 進行性骨化性線維異形成症
進行性骨化性線維異形成症の病態と治療への試み
FOP口腔ケアハンドブック