前立腺治療薬はパーキンソン病のリスクを減らす可能性があるのか?

記事要約

前立腺治療薬がパーキンソン病のリスクを低減する可能性があることが明らかになりました。この研究に関する医療記事を翻訳し、無料公開しております。

前立腺肥大の治療に通常使用されるテラゾシンなどの解糖促進薬を再利用することで、男性のパーキンソン病リスクが低下する可能性があることが新たな研究で示唆されました。

パーキンソン病は、ドーパミンと呼ばれる脳内化学物質のレベルが低下することによって引き起こされる神経変性疾患です。

症状は時間の経過とともに悪化し、発話障害から咀嚼・嚥下障害まで、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

パーキンソン病は主に運動に影響を与えますが、ドーパミンの減少はうつ病、認知症、睡眠障害、エネルギー低下など、運動以外の症状を引き起こすこともあります。

医療では様々な治療法で幅広い症状に対応することができますが、現在のところパーキンソン病を治す薬はありません。

大半の治療法はドーパミンのレベルを回復させることに焦点を当てています。

しかし最近では、解糖と呼ばれる代謝経路を利用してエネルギーレベルを高める方法が研究されています。

パーキンソン病における解糖の役割

すべての細胞はその機能を遂行するためにエネルギーを必要としますが、解糖はエネルギー生産のうえで最初に新陳代謝する経路の一つです。

この多段階の経路は、グルコースを分解して、さらなるエネルギー生産に使用されるさまざまな種類の分子に分解します。

2014年の研究結果は、パーキンソン病の早期の発症による酸化ストレスの増加が、ブドウ糖代謝の障害につながることを示唆しています。

一方2019年の研究結果では、エネルギー産生レベルを高めることでパーキンソン病の症状の発症を遅らせることができることが示されています。

以前の研究では、前立腺肥大の治療に用いられるテラゾシンと呼ばれる薬が、解糖でグルコースを分解するのに必要な主要酵素の活性を高めることで、細胞のエネルギーレベルを高めることができると結論づけられていました。

このため2019年の研究では、テラゾシンの効果を動物モデルで調べ、臨床データベースを利用して、同薬を服用しているパーキンソン病患者の情報を収集しました。

その結果テラゾシンは病気の発症を遅らせ、合併症を減らし、診断数を減らすということを発見しました。

現在、アイオワ大学の研究者が率いる国際的なチームは、テラゾシンを含む解糖促進薬の有効性を、同じような適応症を持つが解糖を増加させない薬であるタムスロシンと比較しています。

アメリカとデンマークでの調査

研究者らは、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシン、タムスロシンを初めて服用する人の医療情報を収集した2つの調査を行いました。タムスロシン以外はすべて解糖促進作用があります。

研究チームは1996年1月から2017年12月まで、デンマークの3つの全国の健康者登録データを利用しました。

2001年1月から2017年12月まで、研究チームはTruven Health Analytics Marketscanデータベースから情報を取得したのです。

研究チームはパーキンソン病を発症したことのある患者を除外しました。

また、薬を服用する前または服用後1年以内にパーキンソン病を発症した患者は除外しました。

これらの薬は通常男性に処方されるため、女性の参加者は含まれていませんでした。

データ収集は、新しい投薬を開始してから1年後に始まりました。

その人がデータベースから削除されるまで、または2017年12月まで継続されました。

どの薬がパーキンソンのリスクを低下させたのか?

研究者らは、解糖促進薬を服用している人と似たような特徴を持つタムスロシンを服用している人をマッチングしました。

その結果デンマークのコホート(観察対象)では52,365組、トゥルーベンのコホートでは94,883組がマッチしました。

コホートの平均年齢はそれぞれ67.9歳と63.8歳でした。

どちらのコホートにおいても、解糖促進薬を服用した人は、タムスロシンを服用した人よりもパーキンソン病を発症する可能性が低かったのです。

解糖促進薬を服用していた人のパーキンソン病発症リスクは、デンマークのコホートではタムスロシンを服用していた人と比較して12%、トゥルーベンのコホートでは37%低く出ました。

研究者らは、タムスロシンではなく解糖促進薬を服用した人では、パーキンソン病発症のリスクが低下しただけでなく、この薬は服用する期間が長くなるほどリスクを低くし続けることを観察しました。

2つの調査は「概念的には類似している」ものの、研究チームは小さな設計の違いが結果に影響を与えた可能性があることを認めています。

「解析に使用した設計と結果の定義はほぼ平行していたが、両国の医療制度やコーディング方法の違いにより、トゥルーベンのコホートとデンマークのコホートを直接比較することは困難であった」と著者らは述べています。

薬についてのいくつかの考察

多くの危険因子がパーキンソン病の発症に寄与する可能性があり、この研究では、頭部外傷や農薬への曝露など、病気の進行をさらに増加させる可能性のある他の変数には注目していません。

それでも著者らは、ブドウ糖代謝が低下している人を特定し、解糖を促進する薬を処方することが役立つ可能性があることを示唆しています。

この研究は男性のみに焦点を当てたものであり、女性がこの特定の治療法の恩恵を受ける可能性があることを示唆するのは時期尚早かもしれないという点に注意が必要です。

『Journal of Parkinson's Disease』誌に掲載された2019年のレビューによると、男性は女性よりも2倍の確率でパーキンソン病に罹患していることが報告されています。

しかし、女性の場合は病気の進行が早く、女性の方が死亡率が高いと書かれています。

今回の研究は観察的なものであったため、解糖促進薬がすべての人のパーキンソン病を遅らせることができるかどうか確認するには、無作為化臨床試験を含めたさらなる研究が必要です。


この記事は、MEDICAL NEWS TODAYに掲載された「Could prostate drugs reduce Parkinson's disease risk?」を翻訳した内容です。

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