妊娠時にかゆみを生じる瘙痒性皮膚疾患|疾患情報【おうち病院】

記事要約

妊娠時にかゆみを生じる皮膚疾患とは、妊娠に伴う皮膚病変で、妊娠に伴う生理的な変化、妊娠に特異的な疾患、妊娠に影響を受ける疾患のことです。妊娠時にかゆみを生じる皮膚疾患の原因・症状と治療方法・改善対策を解説

妊娠時にかゆみを生じる搔痒性皮膚疾患 

妊娠に伴う皮膚病変には、妊娠に伴う生理的な変化、妊娠に特異的な疾患、妊娠に影響を受ける疾患、があります。妊娠による生理的変化は母体のホルモンバランスの変化を原因とします。生理的変化は肝斑に代表される色素異常、皮膚が引き伸ばされることにより生じる線状皮膚萎縮症、エストロゲン上昇による手掌紅斑やクモ状血管腫、多毛や脱毛、下肢静脈瘤などがあります。

妊娠時には、かゆみを伴う様々な皮膚症状を生じることがあります。代表的なのは、「妊娠性痒疹」と「PUPPP(Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy:妊娠に伴う瘙痒性蕁麻疹様丘疹・局面))です。こちらは日本語ではあまり使われておらず、PUPPPが一般的に用いられています。

妊娠時の瘙痒性皮膚疾患については、様々な分類があります。近年、AEP(atopic eruption of pregnancy妊娠性アトピー様皮疹)という概念が提唱されていますので、こちらも含めて解説します。

妊娠性痒疹

「痒疹」というのは、かゆみを生じる皮疹の中で、しこりのように固くなってしまうものを指します。アトピー性皮膚炎や慢性湿疹でも、通常は平らな紅斑やポツポツとした皮疹(丘疹といいます)が主な症状ですが、ときに少し硬い小豆大程度までの皮疹を生じることがあります。

妊娠性痒疹は「痒疹」を主体とする妊娠中に生じる疾患です。

発症時期

妊娠初期から中期に多くみられます。

症状

体幹や四肢伸側に痒疹様の丘疹、結節が多発します。中央に血痂(掻爬により出血した血の塊)が付着することがあります。強いかゆみがあります。

原因

不明ですが、以前からアトピー素因との関係を指摘する報告もあります。妊娠中にみられる瘙痒性皮膚疾患の半数はアトピー素因を持つとされ、妊娠性痒疹をも包括する疾患概念としてAEP(atopic eruption of pregnancy妊娠性アトピー様皮疹)という病名も使われています。

*AEP(atopic eruption of pregnancy妊娠性アトピー様皮疹)

比較的新しい概念で、この疾患名として別に分類される場合もあります。特徴としては

  1. 妊娠中期までに発症する(番号ありリスト)
  2. 患者の20%は元々のアトピー性皮膚炎の増悪、残り80%は本人または家族にアトピー性素因を持ち、妊娠を契機に皮疹が出現する(番号ありリスト)
  3. 湿疹様ないし丘疹性病変が体幹と四肢に認められ、湿疹型と痒疹型に分けられる(番号ありリスト)
  4. 胎児への影響はない(番号ありリスト)
  5. 出産後に全例が軽快するとは限らない

などがあげられます。

この「痒疹型」は妊娠性痒疹に相当すると考えられています。 

診断・鑑別疾患

妊娠中期までに四肢、体幹に多発・散在してみられる強い瘙痒を伴う丘疹、結節から診断します。

鑑別診断としては、妊娠とは関係のない湿疹、アトピー性皮膚炎、虫刺症、毛包炎、PUPPP等が挙げられます。

治療

1.ステロイド外用薬

第一選択です。一般的な使用方法であれば、胎児への影響はないと考えられます。

2.抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬

かゆみが強ければこれらの内服を併用することがあります。妊娠中でも使っている比較的安全性の高いものを使用します。

3.ステロイド内服薬

上記でコントロールできない場合、少量から中等量のステロイド内服を用いることがあります。一般には出産後に軽快するので短期間の投与です。

予後

予後は良好で、母体や胎児には影響はありません。通常は出産後2〜3か月で改善しますがときに長引くことがあります。

PUPPP

妊娠中の搔痒性皮膚疾患で明らかな「痒疹」を呈さない疾患は、様々な病名でよばれていましたが、1979年に提唱されたこの疾患名に統一されています。

発症時期・頻度

通常、妊娠後期に発症します。妊婦の0.5%前後にみられるとされています。初回妊娠時に多く、また、体重過多の妊婦、多胎妊娠の割合が多いとされています。

症状

腹部から、しばしば妊娠線に沿って始まる蕁麻疹様の浮腫性紅斑ないし丘疹で、臍周囲を避ける傾向があります。皮疹は四肢にも生じますが、顔面に見られることはほとんどありません。しばしば小さな水疱や多形紅斑と呼ばれる少し盛り上がった水っぽい紅斑を伴うなど、多彩な症状がみられます。

夜間眠れないほどの強いかゆみを伴うことも少なくありません。

原因

原因は不明です。妊娠に伴って皮膚が引き伸ばされることに伴う、皮膚の真皮コラーゲン損傷に関連するアレルギー、胎盤の父方抗原に対する反応、妊娠に伴う性ホルモンの関与などがあげられますがいずれも推測の域をでません。

診断・鑑別診断

妊娠後期に腹部から始まる強い瘙痒を伴う蕁麻疹様丘疹、紅斑をみたら疑います。

鑑別疾患としては、妊娠性疱疹(水疱を生じる免疫性疾患、非常にまれ)、薬疹、ウイルス発疹症、蕁麻疹、接触皮膚炎、妊娠性痒疹などがあります。

治療

治療方針は基本的に妊娠性痒疹と同様です。ステロイド軟膏の外用を中心に、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬の内服のほか、激しいかゆみにはステロイド内服を必要とすることもあります。少量〜中等量で通常短期間ですみますので、かゆみのコントロールができないときには使ったほうが良いでしょう。

予後

予後は良好で、胎児への影響はありません。通常、出産後に速やかに軽快します。

その他、妊娠に特異的な皮膚病変で胎児に影響を及ぼすもの

この他に胎児に影響する可能性のある以下の3つの疾患があります。いずれも非常にまれです。

《1》妊娠性疱疹

妊娠後期に生じる水疱を多数伴う疾患です。自己免疫により表皮下に自己抗体が沈着して水疱を生じます。ステロイド内服が必要です。未熟児、早産をきたすことがあります。

《2》妊娠性肝内胆汁うっ滞症

胆汁うっ滞による激しいかゆみのみで皮疹は生じません。妊娠中は、増加する女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンが胆嚢の収縮を抑制し、胆汁うっ滞が生じやすい状態になっています。70%以上が妊娠後期に発症し、強いかゆみを特徴とします。黄疸を生じます。母体の全身状態は良好ですが、羊水混濁、胎児仮死の原因になり、早産・死産をきたします。かゆみは分娩後速やかに軽快しますが、妊娠により再発することがあります。

《3》妊娠に伴う膿疱性乾癬

膿疱(黄緑色の膿)を伴う紅斑を生じます。死産や新生児死亡の原因になります。

まとめ

妊娠時に掻痒を伴う皮疹を生じることは稀ならずみられます。このほかにもホルモンの変化による様々な皮膚症状を生じます。

かゆみを我慢することで睡眠障害や日常のストレスになることは避けたいものです。通常の使用法ではステロイドの外用が胎児に影響することはありません。内服薬も影響しないものもあり、妊娠後期になれば選択できるものも増えます。

ステロイドの内服は種類を選択すれば問題なく行えます。通常よく使用するのはプレドニゾロン(PSL)です。妊娠性痒疹やPUPPPでかなりかゆみの強い場合でも、PSL5〜20mg程度までの少量〜中等量でコントロールが可能です。出産後には改善しますので、短期間の使用ですみます。

元々アトピー性皮膚炎をもっていた方が妊娠中や出産後に悪化することもあります。大きな身体の変化に伴って皮膚の症状も生じますが、上手に治療し付き合っていくことは可能です。

我慢せずに専門医にご相談ください。

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