弾性線維性仮性黄色腫|疾患情報【おうち病院】

記事要約

弾性線維性仮性黄色腫は、弾性線維に変性・石灰化が生じ様々な組織の障害を引き起こす疾患です。弾性線維性仮性黄色腫の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

弾性線維性仮性黄色腫とは

弾性線維性仮性黄色腫は、弾性線維に変性・石灰化が生じ様々な組織の障害を引き起こす疾患です。弾性線維というのは、皮膚や血管に分布する弾力性を持たせる線維です。その異常のために、皮膚、眼、心・血管、消化管に多彩な症状が見られます。皮膚では頸部などに多発する黄白色の皮疹が代表的で、仮性黄色腫と言います。眼では網膜に亀裂が入って視力障害を生じたり、血管の障害により心臓、脳、消化管などにも様々な症状をきたします。

弾性線維性仮性黄色腫の原因

常染色体劣性の遺伝性疾患です。弾性線維性仮性黄色腫(PXE)の原因遺伝子はABCC6であり、これは16番染色体に位置し、その遺伝子産物はMRP6とよばれています。この分子は輸送膜タンパク質ABC群に属し、この群の分子異常により代謝性疾患をはじめとした種々の疾患を引き起こします。しかしながら、現在のところ、弾性線維に変性・石灰化をもたらす詳しい機序は解明されていません。

弾性線維性仮性黄色腫の疫学的整理

10-30万人に1人とされ、現在約300人が確認されていますが、診断されていない方が多いと思われます。本邦の調査によると、日本では海外と比較して、皮膚病変、眼病変、血管病変の重症度が有意に低い傾向にあるとされます。

弾性線維性仮性黄色腫の症状

弾性線維が分布する、皮膚、眼、血管の異常により様々な症状がみられます。

(1)皮膚

代表的な皮膚症状は10~20代から生じる頚部、腋窩、鼠径部、肘窩、膝窩、臍周囲に好発する集簇性または線条に分布する黄白色丘疹で、癒合して局面となる場合もあります。口唇粘膜に黄白色斑が認められます。皮疹を見慣れていない場合、また非典型皮疹(ざ瘙様丘疹、暗赤色斑、弛緩した皮膚など)の場合は、正確な診断のためには必ず組織検査が必要です。

(2)眼

網膜に亀裂が入り、オレンジ皮様変化(梨子地眼底)、血管様線条(色素線条)を呈します。同部位に出血・血管新生が発生し、視野欠損、視力障害を生じることがあります。

(3)心・血管

血管壁の中膜弾性板に変性・石灰化を生じ、血管内腔の狭小化による虚血障害を呈します。間歇跛行、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、消化管出血などを発症します。一般的な動脈硬化症と比べて特異的症状はないものの、本症ではその頻度は高く、特に若年時から発症することがあるので注意を要します。

(4)消化管病変

消化管出血、なかでも動脈性出血が特徴的です。胃粘膜下に異常動脈網、異常走行、動脈瘤が内視鏡ならびに造影CT検査で認められます。

弾性線維性仮性黄色腫の診断

以下の診断基準があります。

(1)診断基準

A.診断項目

①皮膚病変がある
②皮膚病理検査で弾性線維石灰化をともなう変性がある
③網膜血管線条(色素線条)がある
④ABCC6遺伝子変異がある

B.診断のカテゴリー

I. Definite(確実)  :(①又は②)かつ③
II.   Possible(疑い):(①又は②)のみ、または③のみ

注意
1) II 「Possible」に④遺伝子変異を証明できた場合はDefiniteとする。
2) 以下の疾患を完全に除外できること。
類似皮膚症状を呈するもの:PXE-like papillary dermal elastolysis、D-penicillamine内服
網膜色素線条を呈するもの: 骨パジェット(Paget)病、鎌状赤血球症、
エーラス・ダンロス(Ehelers-Danlos)症候群、鉛中毒、外傷
脈絡膜新生血管を生じるもの: 加齢黄斑変性、変性近視
消化管粘膜病変を呈するもの: 胃・十二指腸潰瘍
各病変について重症度分類があり、項目を満たす場合には難病認定されます。

(2)病理組織像

皮疹のある部位からの組織検査による病理組織像の確認が重要です。ヘマトキシリンエオジン染色で、真皮中層~下層に好塩基性に染色される、石灰沈着を伴う変性弾性線維を認めます。Von Kossa染色等で石灰沈着を証明することは早期病変の診断ならびに鑑別診断にきわめて有用です。皮疹が無い場合でも、頚部、腋窩など好発部位より組織検査を行うと石灰沈着がみられることがあるので、本症が疑われる場合には積極的に行う必要があります。

(3)遺伝子診断

代表的原因遺伝子であるABCC6変異部位同定を行います。長崎大学皮膚科のホームページにリンクを設けて医師からの依頼を随時受け付けています。

弾性線維性仮性黄色腫の治療

皮膚病変は、整容的また精神的に問題となりますが、皮膚病変を完全に消失させる確実な方法は無いため、希望に応じて形成的手術を含めた対症療法を行います。

視力障害は一旦発症すると進行性で、回復は困難であり、日常生活に支障をきたします。出血・血管新生に対しレーザー治療を試みられますが、効果は一定しません。薬物療法は未だ困難で有効なものがありませんが、新しい治療も試みられています。無症状であっても定期的な検診は必要です。

心、血管病変については、動脈硬化が多発性、また広い範囲に起こるため、動脈硬化症に準じた薬物治療、ステント留置、血管置換術など対症療法を行います。比較的若年から生じることがあるため、生活習慣を整える、定期的な検査による早期発見、治療が重要です。消化管の動脈性出血に対しては緊急で内視鏡による止血術などの治療を行います。

<リファレンス>

弾性線維性仮性黄色腫診療ガイドライン 2017年版 日本皮膚科学会
弾性線維性仮性黄色腫 難病情報センター166
弾性線維性仮性黄色腫 長崎大学皮膚科ホームページ (遺伝子診断受付)

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