レット症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

レット症候群とは、ほとんどが女児に発症し、自閉症様の症状、特有の常同運動(手もみ動作)、失調性歩行、てんかんを主徴とする進行性の神経疾患です。レット症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

レット症候群とは

レット症候群は、ほとんどが女児に発症し、自閉症様の症状、特有の常同運動(手もみ動作)、失調性歩行、てんかんを主徴とする進行性の神経疾患です。遺伝子の異常によって生じることがわかっています。

生まれた時は正常なように見えますが、生後6ヶ月〜18ヶ月以降に徐々に精神運動発達の異常を認めるようになります。1歳半〜3歳頃までには、今までできていた手の運動が徐々にできなくなり、手の常同運動(手もみ、手絞り、片手で胸を叩く等を繰り返す)が出現します。

「なかなかハイハイをしない、歩かない」、「発語がない」などにより異常を疑い、受診に至ります。また、今まで出来ていたこと(例えば、お座り、おもちゃに手を伸ばすなど)が徐々にできなくなる、しなくなるといった “退行変化” が本症の特徴とされています。

幼児期には、けいれん、自閉症様の症状、パニック発作、失調性歩行を認めることがあります。また筋緊張の低下などから脊椎側弯の進行が見られることもあります。知的には重度の障害を認めます。不整脈や誤嚥性肺炎を起こすこともあり、これらが突然死の原因になりうるといわれています。

現段階では、本症に対する根本的な治療法はありません。したがって、各症状に対する対症療法を行っていきます。

レット症候群の原因

本症は遺伝子異常によって起こる疾患です。MECP2遺伝子の異常が原因であることがわかっています。MECP2遺伝子の異常は、本症典型例の80〜90%に見られます。非典型例として、CDKL5、FOXG1遺伝子の異常が見つかっています。しかし、これらは典型的なレット症候群と症状は似ているものの、一部異なる症状や経過があり、非典型的レット症候群と考えられています。

遺伝形式はX連鎖性優性遺伝をとりますが、ほとんどの症例が遺伝子の突然変異による孤発例です。まれに、生殖細胞モザイク※1を持つ親からの遺伝の報告もあります。

※1 生殖細胞モザイクとは、生殖細胞に遺伝子変異を持つ細胞と持たない細胞が混在していることをいいます。

レット症候群の疫学的整理

本症は、女児出生10,000〜15,000人に約1人の発生率であるとされ、本邦における患者数は、4,000〜5,000人と推定されています。発症患者のほとんどは女児です。発症には人種差はないと考えられており、本症は世界中で報告されています。

レット症候群の症状

本症は、出生時から数ヶ月間は正常であるように見えます。しかし実際には、日中の睡眠時間が長い、外界への反応が乏しい、哺乳力が弱い、視線が合いにくいなど何らかの症状を呈していることが多いとされ、周囲がそれらに気付いていないため健常児であると思われる傾向にあります。

乳児期後期から徐々に精神運動発達の停滞や遅延が見られるようになり、言語や運動の退行変化が見られるようになります。また重度の知的障害を認めます。自閉症様症状、失調性歩行、けいれん、脊椎側弯症、不整脈、睡眠障害、呼吸異常、小頭症などさまざまな症状を認めるようになります。

症状や経過には個人差がありますが、典型例では以下のような経過を辿ります。

第1期:発達停滞期(生後6~18ヶ月)

生後6ヶ月ごろから、運動発達の遅れ(ハイハイやつかまり立ち、歩行ができない)が見られるようになったり、視線が合わない、外界への反応低下、言語の発達が見られなくなります。

第2期:退行期(1~4歳から)

運動や言語の退行(今までできていたことができなくなる)が見られるようになります。それまで出来ていた手の動きができなくなり、常同運動(手もみ、手絞り、手で胸を叩くなど)が出現します。
歩行ができなくなったり、コミュニケーションをとることも難しくなっていきます。

第3期:仮性安定期(2~10歳頃から数年もしくは数十年続く)

症状が安定している時期になります。手の常同運動、呼吸の異常、歯ぎしりなどはよく見られますが視線がよく合うようになるといわれています。40〜80%にけいれんを認め、筋緊張は徐々に亢進します。

第4期:晩期機能低下(10歳~)

動くことが難しくなっていき、車椅子が必要な生活になっていきます。動かないために上下肢の筋萎縮、骨萎縮を起こします。骨密度の低下を認めることが多く、骨折の危険性が高まります。ジストニア※2や脊椎側弯症の進行を認めます。

※2 ジストニアとは、自分の意思によらない運動の一つで、自分で動きを制御することができません。筋緊張の異常によって生じます。

レット症候群が重症化しやすい場合

CDKL5遺伝子異常によるものは、非典型的レット症候群(早期発症てんかん型)とされ、乳児期早期から難治性のてんかんを発症します。また男児にも発症し、男児の方が女児よりも重症であることが多いとされています。
FOXG1遺伝子異常によるものは、生後早期から重度の発達障害が見られ、小頭症を認めるのが特徴です。

レット症候群の診断方法

本症は、臨床症状によって診断されます。手足の運動機能や言語の退行変化、歩行異常、手の常同運動といった特徴的症状により本症を疑い、明らかな原因のある脳障害や他の発達障害をきたす疾患を鑑別することで診断に至ります。鑑別に際し、遺伝子診断を行うことがあります。

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

Definiteを対象とする。

レット症候群の診断基準

A.主要症状

乳幼児期~小児期早期に以下の症状が出現する。

  1. 目的のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること。
  2. 音声言語を習得後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること。
  3. 歩行異常:歩行障害、歩行失行。
  4. 手の常同運動:手をねじる・絞る、手を叩く・鳴らす、口に入れる、手を洗ったりこすったりするような自動運動。

B.典型的レット症候群診断のための除外基準

  1. 明らかな原因のある脳障害(周産期・周生期・後天性の脳障害、神経代謝疾患、重度感染症など)による脳損傷。
  2. 生後6か月までに出現した精神運動発達の明らかな異常。

C.非典型的レット症候群診断のための支持的症状

  1. 覚醒時の呼吸異常
  2. 覚醒時の歯ぎしり
  3. 睡眠リズム障害
  4. 筋緊張異常
  5. 末梢血管運動反射異常
  6. 側弯・前弯
  7. 成長障害
  8. 小さく冷たい手足
  9. 不適切な笑い・叫び
  10. 痛覚への反応の鈍麻
  11. 目によるコミュニケーション、じっと見つめるしぐさ

D.鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。
アンジェルマン症候群、ピット・ホプキンス症候群、自閉症スペクトラム症(障害)などの発達障害

 E.遺伝学的検査

  1. MECP2遺伝子変異
  2. CDKL5遺伝子検査
  3. FOXG1遺伝子検査

※その他、従来から発達障害の原因遺伝子として報告されていた遺伝子異常でレット症候群類似の臨床像を呈する事が報告されている。

 診断のカテゴリー

Definite:以下のいずれかを満たす場合。

典型的レット症候群の診断要件:Aのすべての項目+Bのすべての項目を満たすこと+Dの鑑別ができること+回復期や安定期が後続する退行期があること。
非典型的レット症候群の診断要件:Aのうち2項目以上+Bのすべての項目を満たすこと+Cのうち5項目以上を満たすこと+Dの鑑別ができること+回復期や安定期が後続する退行期があること。

Probable:Aのうち2項目以上。 

レット症候群の治療

現段階では、本症に対する根本的な治療法はありません。したがって、各症状に対する対症療法を行なっていきます。
姿勢や協調運動の障害、手の常同運動に対し理学療法、作業療法といったリハビリテーションや療育(発達支援)が行われています。
けいれんに対しては抗けいれん薬、骨密度が低い場合にはビタミンD、カルシウム製剤の内服といった薬物療法があります。
睡眠障害に対しては、睡眠-覚醒のリズムの指導やメラトニンの内服治療があります。
脊椎側弯症に対しては、側弯の進行を予防するために装具療法(コルセットの装着)を行います。また症状が進行した場合には、手術が必要になることもあります。
歯科治療も大切で、歯ぎしりによる歯のすり減りに対する処置、虫歯の予防・治療、口腔ケアなどを行います。

レット症候群の経過、予後

本症は、神経系を主体とした進行性疾患であるため、経過とともに運動機能が低下していきます。嚥下機能も低下していき誤嚥性肺炎を起こしやすいため、食事の形態には工夫が必要になっていきます。

また突然死の原因になりうる不整脈の発生が報告されているため、定期的な心電図によるフォローアップが必要です。

誤嚥性肺炎や不整脈といった合併症が予後に影響する因子であると考えられています。

 <リファレンス>

難病情報センター レット症候群(指定難病156)
難病情報センター レット症候群(指定難病156)
難病情報センター レット症候群(指定難病156)
小児慢性特定疾患情報センター レット (Rett) 症候群
GeneReviews Japan レット症候群
認定NPO法人 レット症候群支援機構

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