サルコイドーシス|疾患情報【おうち病院】
記事要約
サルコイドーシスとは、「肉芽腫」という、主に類上皮細胞やリンパ球などの集合でできた結節が全身のさまざまな臓器に生じる疾患です。サルコイドーシスの原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
サルコイドーシスとは
サルコイドーシスは、「肉芽腫」という、主に類上皮細胞やリンパ球などの集合でできた結節が全身のさまざまな臓器に生じる疾患です。肉芽腫とは、リンパ球やマクロファージ(貪食細胞)が生体に有害な炎症を起こす菌や物質を封じ込める以外の不明な理由によって、血管の外に集まってできたかたまりをいいます。時間が経過するとマクロファージが変化した細胞(類上皮細胞、多核巨細胞)などもこの肉芽腫に出現してきます。この塊によって正常な機能が障害されるために様々な症状が出現します。
両側肺門リンパ節、肺、眼、皮膚に病変をきたすことが多いですが、肝臓、脾臓、耳下腺、心臓、脳神経系、筋肉、骨などにも病変を作ることもあります。時に重篤な肺病変をきたしたり、心サルコイドーシスは突然死の原因になるなど難治、重篤な経過をとることもあります。
サルコイドーシスの原因
なんらかの物質がリンパ球、とくにTリンパ球の活動を活発にし、この細胞がつくりだす物質によって、マクロファージ細胞が刺激されるために肉芽腫病変が作られます。今まで、結核菌説、溶連菌説、ウイルス説など様々な説がありましたが、現在では、プロピオニバクテリアをいうニキビの原因となる菌に対する過剰な免疫反応が関与しているという説が最も有力です。
まれに家族発症の報告はありますが、明らかな遺伝性はわかっていません。
サルコイドーシスの疫学的整理
地域や人種によって発生率や重症度に違いがあり、たとえばヨーロッパでは南欧より北欧に多くみられます。アメリカでは黒人が白人の数倍もかかりやすく、かつ重症となりやすいとされます。
日本における調査では、人口10万人対1.7人(組織診断は1.0人)の発生率でしたが、軽症の人を含めると実際にはもっと多いと思われます。性別では女性が男性の2倍で、年齢別では、男女ともに20歳代と50歳代以降に2峰性に多くみられます。特に男性は若年者、女性は高齢者に多くみられます。
サルコイドーシスの症状
従来、自覚症状がなくて、健康診断のときにたまたま胸部X線検査で偶然に発見されることが多かったのですが、最近は様々な自覚症状で見つかることも増えています。
大きく分けると、侵された臓器ごとの「臓器的特異症状」と、侵された臓器とは無関係におこるいわゆる「非特異的全身症状」があります。肺と眼と皮膚で、それ以外に、心臓、神経・筋肉、骨、関節などがあります。
(1)主な症状
《1》肺
胸部X線写真で両側肺門部リンパ節の腫大(Bilateral Hilar Lymphadenopathy; BHL)が健診などで偶然発見される場合が多いです。この場合には、自覚症状はほとんどありません。病変が進んで胸部X線写真でびっくりするほどの陰影があってもあまり自覚症状がないのが、この病気の特徴のひとつです。したがって、進展度が自分ではわからないことも多いので、定期的に医療機関で胸部X線写真を検査し続けることが必要です。
それでも肺の陰影が長く続くと、進行して「肺線維症」という状態になって、せきや息切れがでてくることがあります。自然になおってしまう患者さんがいる一方、肺線維症になって、肺移植の適応になる方もおられるわけです。あまり進行する前に治療を開始する必要があります。
《2》眼
眼のぶどう膜という部分に炎症がおこり、ものがかすんで見えたり(霧視)、まぶしくなったり(羞明)、蚊が飛んでいるように見えたり(飛蚊症)、目が充血したり、視力が低下したりします。ブドウ膜炎をおこす病気として、昔はベーチェット病が第一位で、サ症、原田氏病がそれに続いていましたが、現在は全国的にサルコイドーシスが一位になっています。患者さんは目の症状ですから眼科を受診されますが、そこで「ブドウ膜炎」と診断されたら、サルコイドーシスなどほかの病気である可能性を考えて内科にも受診する必要があります。全体の約3%が失明したという統計がありますので、はじめから適切な治療をすることが大切です。
《3》皮膚
サルコイドーシスの皮膚病変は多彩ですが、生検が容易なので確定診断に有用です。
皮膚サルコイド、瘢痕浸潤、結節性紅斑に分類され、皮膚サルコイドには結節型、局面形成型、皮下型、びまん浸潤型、その他様々な症状があります。顔面に比較的多く見られます。生検をすると特徴的な類上皮細胞肉芽腫が認められます。瘢痕浸潤は膝などに昔すりむいた痕にできてくる皮疹で、やはり肉芽腫が生検で認められますので診断に重要です。結節性紅斑は病気のはじめに下肢にできる紅斑で、生検しても肉芽腫は認められず、ほとんど早期に消えてしまいます。
《4》心臓
日本人には比較的多く、サルコイドーシスの約10%に心臓に病変があるとされます。大きく分けて2種類の病変があります。1つは刺激伝導系が侵されて不整脈がおこる場合、もう1つは心臓を収縮させる筋肉が侵される場合です。前者は、偶然心電図で発見されたり、患者さんが不整脈を自覚されたり、あるいは高度の房室ブロックのために心臓の実質的拍動が弱まって、意識消失(失神)で緊急受診となったりします。高度の房室ブロックでは、原因が何であれペースメーカーが挿入されて急場をしのぐケースが多くなります。後者の場合は、放置すると心臓の拍出力が次第に落ちてきて動くと息切れがする、慢性心不全になってきますので、診断されたら早めに十分な治療を開始する必要があります。
欧米のサルコイドーシスの死因で最も多いのは肺の病気による呼吸不全ですが、日本でもっとも多いのは、心臓病変によるものです。サルコイドーシスの患者さんでは、症状がなくても、定期的に心臓の検査を行います。
《5》神経
神経の病変は脳や髄膜や脊髄や末梢神経のどこにでもできる可能性があり、侵される部位によっていろいろな神経症状をきたします。 症状としては、顔面神経麻痺で口がゆがむ、下垂体に腫瘤ができておこる尿崩症で多量の尿がでる、脊髄にサルコができて痛みを生じる、などがあります。
《6》筋肉
筋肉を侵した場合には、ほとんどが腫瘤(コブ)を形成してきます。多いのはふくらはぎの筋肉ですが、まれに腕や大腿などがあり、慢性のサルコイド筋炎は稀ですが近位筋の筋力低下がおこります。
《7》骨
手指骨、足趾骨が侵されやすいのが特徴で、多くが痛みを訴えますが、ときに全く無症状のこともあります。
《8》表在リンパ節
表在のリンパ節が痛みもなく腫れてくることがあります。生検で診断をつけることができます。また、放置しても長く待てばほとんどが無くなってきます。
《9》肝臓、脾臓
肝臓や脾臓にサルコイドーシスができていることはかなり多いのですが、症状を呈してくることは極めて稀です。
《10》その他
鼻腔内に病変ができると鼻詰まり症状を起こすことがありますが、診断は難しい事が多いです。胃や腸、乳房、精巣などにも生じることがありますが稀です。
その他の非特異的症状として、発熱、痛み、咳・息切れ、手足のしびれ、自律神経障害などを伴うことがあります。
(2)主な部位別症状の発症頻度
臓器 |
肉芽腫の存在 |
存在したときに症状を出す頻度 |
肺 |
ほぼ100% |
進行性で高い |
縦隔肺門リンパ節 |
およそ90% |
まれ |
眼 |
およそ60% |
ほぼ必発 |
皮膚 |
およそ35% |
ほぼ必発 |
心臓 |
生存例10%(死亡例ではおよそ70%) |
ほぼ必発 |
肝臓 |
およそ80% |
まれ |
脾臓 |
およそ40% |
まれ |
腎臓 |
およそ15% |
まれ |
筋肉 |
およそ15% |
およそ1割 |
神経 |
およそ10% |
ほぼ必発 |
骨 |
およそ2% |
ほぼ必発 |
関節 |
およそ1% |
ほぼ必発 |
サルコイドーシスの診断
胸部X線写真で両側肺門部リンパ節の腫大で気づかれることが多く、ときにびまん性の肺野陰影を認めます。確定診断のためには、生検によって、病巣の組織の中に類上皮細胞肉芽腫を見つけることが必要です。皮膚や筋肉や表在リンパ節などの病変は比較的診断がしやすいと言えます。眼科所見は確認します。
肺病変の場合には呼吸器内科では、気管支鏡で肺の生検を行うことが一般的で(経気管支的肺生検)あり、肺胞洗浄とあわせて行います。胸部CT、ガリウムシンチによる全身の病変の精査も有用です。心サルコイドーシスの精査には、心電図、ホルター心電図、心エコー、造影MRIなども行います。また、FDG-PETでの以上集積は心筋病変の早期診断に有用です。
血液検査では血液中のアンギオテンシン変換酵素(ACE)やリゾチームの高値、蛋白分画中のガンマグロブリンや血中・尿中カルシウムが高値になるというということがありません。増加している場合には、病態が改善するとともにそれらの値も低下してきます。
ツベルクリン反応が陽性であったのが、サルコイドーシスに罹患するとその反応が弱くなり、多くは陰転化することもあります。
サルコイドーシスの治療
サルコイドーシスは特に自覚症状なく経過したり、自然に改善することも多いため、症状の軽い例では経過をみるのが一般的です。しかし、肺の症状が強い場合、心臓の症状がある場合、病状が進行してきた場合、検査値で大きく異常がある場合には、積極的な治療が必要です。
現在のところ、治療薬は副腎皮質ステロイドホルモン剤(以下ステロイド)が第一選択でありときに免疫抑制剤のメソトレキセートなどを使うこともあります。
皮膚病変のみであればステロイド外用のみで経過をみることもあります。その他、骨、関節、腎臓などの症状に対してはステロイドの全身投与を行います。
最近ではプロピオニバクテリアを標的にして、抗菌剤による治療も行われてきています。
サルコイドーシスの生活上の注意
自覚症状がなければ半年に1度の経過観察でよいでしょう。心臓の病変については、定期的な検査が必要です。ステロイドや免疫抑制剤を治療で用いる場合には、感染症や糖尿病などの副作用に注意する必要があります。
女性の患者さんは、出産後にサルコイドーシスが悪化することがあり、注意が必要です。ステロイドや免疫抑制剤を治療で用いている場合には、妊娠してよいか医師に相談することをおすすめします。症状があれば、無理をせず、ストレスをさけて、規則正しい生活でともかく心身を休めることが大切です。
サルコイドーシスの予後
病変の広がりと発症の経過により様々です。患者さんの約7割は自然に軽快しますが、約10%の患者さんはステロイドなどによる長期の治療が必要となります。
日本ではこの病気で死亡する患者さんは非常に少ないですが、心臓や肺の病変の進行には注意が必要です。
<リファレンス>
サルコイドーシス(指定難病84) 難病情報センター
サルコイドーシス 日本呼吸器学会
サルコイドーシス 東北大学病院 呼吸器内科学分野
心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン