脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)|疾患情報 【おうち病院】

記事要約

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)とは、何らかの外的・内的刺激による表皮の炎症のことを指し、皮膚科外来を受診する患者さんの中でも頻度の高い疾患です。脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)とは

湿疹とは何らかの外的・内的刺激による表皮の炎症のことを指し、皮膚科外来を受診する患者さんの中でも頻度の高い一般的な疾患です。脂漏性湿疹はその湿疹のうちの一つの病名で、顔面・頭頸部・腋窩・鼠径部などの脂漏部位1)(皮脂分泌の多い部位)に生じることが多いという特徴があります。アレルギーや他人に感染するような病気ではありません。

脂漏性皮膚炎(脂漏性皮膚炎)原因

脂漏性湿疹の原因は明確にはなっていませんが、皮脂の存在と皮膚の常在真菌であるマラセチア属真菌の関与が考えられています。好脂性のマラセチア属真菌はリパーゼ(脂質分解酵素)を産生し2)、皮脂の成分のひとつであるトリグリセリドを分解し遊離脂肪酸を放出します。この遊離脂肪酸が皮膚バリアを破壊することで表皮の炎症が引き起こされるとされています3)。
また、ストレスや秋から冬にかけての低温、低湿度の環境は脂漏性湿疹を悪化させます4)。

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)の疫学的整理

脂漏性湿疹は誰にでも起こり得ますが、大きくわけて乳児期と成人期(主に思春期以降と50代以降)に発症しやすく、男女比は約2:14)とされています。
 また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の患者さんやパーキンソン病を含むいくつかの神経変性疾患の患者さんでは脂漏性湿疹を発症するリスクが通常より高いと言われています5)。

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)の症状

乳児期では、生後1カ月頃から、主に頭皮に黄色く厚いかさぶたを伴った赤い皮疹として現れます。他にもおでこや皮膚のしわ部分、稀ですがおむつの部分にできることもあります5)。かゆみはほとんどないと言われています6)。

 成人期では、頭皮、おでこ、眉毛や鼻、耳の周り、背中、胸、脇、股などにできやすく、鱗屑(皮膚が細かくはがれたもの)を伴った赤い皮疹として現れます。かゆみは通常軽度です。

 乳児期の脂漏性湿疹は通常は生後半年〜1年になる頃には自然に軽快しますが、成人期に発症すると、軽快したり悪化したりと慢性的に繰り返すことが多いです。

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)の診断

通常は特別な検査は行わず、問診と上記のような特徴的な皮疹から診断します。しかし、他の真菌感染症、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬など別の皮膚疾患との区別が難しい場合は、必要に応じて顕微鏡検査や皮膚生検などの検査が行われることがあります。

脂漏性湿疹(脂漏性皮膚炎)の治療と相談の目安

乳児期の脂漏性湿疹に関しては、大部分が自然に軽快するため薬物治療は必要ないことが多く、自宅でのケアが重要となります。しかし、赤みが強い、かゆみや痛みがある、皮疹の範囲が広がっていくなどの症状がある場合は早めに受診してください。

 自宅での改善ケア方法として米国皮膚科学会では以下の方法が効果のあるものとして推奨されています5)。

  • 頭皮を強くこすりすぎないように注意しながら、無香料の赤ちゃん用シャンプーでよく洗う。
  • かさぶたが固くくっついていて取れにくい場合は、ベビーオイルなどの非食物由来のオイルを塗布し、その後指で優しくマッサージするようにシャンプーで洗ってあげると取りやすくなる。赤ちゃん用ブラシやくしを使うと、髪の毛にからまったかさぶたは取りやすい。
  • かさぶたは無理矢理はがしたりしない。
    成人期における脂漏性湿疹は薬物治療が必要になることが多いです。抗真菌薬外用が主となりますが、赤みやかゆみが強い場合はステロイド外用剤も有効です。また、脂漏性湿疹の最も軽い状態と考えられている頭部のフケ症5)に対しては、市販の硝酸ミコナゾール含有シャンプーが有効である場合もあります7)。
    成人期の脂漏性湿疹は、治療開始後も軽快と再燃を繰り返し長期に及ぶ可能性があり、特に顔などではステロイド外用剤による副作用に注意が必要なため、定期的な受診が安心です。

<リファレンス>

1)古川福実ほか:皮膚疾患最新の治療:43項,中村晃一郎,脂漏性皮膚炎:南江堂,2019

2)T.Yoshiike et al:J.Med.Mycol,34:417-419,1993

3)T.Dawson et al:Journal of the American Academy of Dermatology,52:p49,2005

4)清 佳浩ほか:Medical Mycology Journal,53:97-102,2012

5)American Academy of Dermatology Assosiation 

6)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021年版:日本皮膚科学会

7)工藤和浩ほか:真菌誌,38:99-107,1997