シェーグレン症候群|疾患情報【おうち病院】
記事要約
シェーグレン症候群とは、涙腺、唾液腺をはじめとする全身の外分泌腺に慢性的に炎症が起こり、外分泌腺が破壊されてドライアイやドライマウスなどの乾燥症状が出現する病気です。シェーグレン症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
シェーグレン症候群とは
シェーグレン症候群は、主として中年女性に好発する、涙腺と唾液腺に異常を生じる自己免疫疾患です。その他の臓器にも症状が及ぶこともあります。。シェーグレン症候群は膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病) に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない 原発性シェーグレン症候群に分類されます。
目や口の乾燥症状のみの方、何らかの全身的な症状を伴う方、 まれに悪性腫瘍を合併することもありますが、約半数の患者さんは10年以上経過しても何の変化もありません。約半数の患者さんでは新しい検査異常や病変がみられます。
シェーグレン症候群の原因
自己免疫性疾患であり、自分の身体の成分に対して免疫反応を起こすことによって起こります。遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、免疫異常、さらに女性ホルモンの要因が考えられています。これらの4つの要因が複雑に関連し合って発症するものと考えられ、どれか一つの原因で発病するわけではありません。
同一家族内に膠原病が発症する率は約8%で、シェーグレン症候群が発症する率は約2%くらいとされています。これはそうでない人と比べると少し高い数値ですが、ひとつの遺伝子の変化が原因で発症するいわゆる遺伝病ではありません。
相談の目安
眼や口の乾燥感、いわゆるドライアイ、ドライマウスが圧倒的に多い症状です。その他には倦怠感や微熱、関節痛などはっきりしない症状がみられることもあります。
乾燥症状に伴って自覚される症状には様々なものがあります。またそれ以外の症状も多様です。後述の症状のところを参考に、気になるときには医師に相談してください。
疫学的整理
2011年の厚生労働省研究班のデータでは、1年間に病院などを受療した患者さんは約68,000人とされました。しかし、潜在的な患者さんを含めると、この数よりも多いことが推測され、アメリカのデータを当てはめると10~30万人と推定されることもあります。
年齢層は50歳代にピークがあります。少数ですが、子供から80歳の老人まで発症することもあります。男女比は男1人:女17人で、女性に多く発症します。
関節リウマチの患者さんでは約20%にシェーグレン症候群が発症します。その他の膠原病の患者さんにも発症することがあります。
シェーグレン症候群の症状
症状は個人差が大きいですが、外分泌腺と呼ばれる唾液腺や涙腺の炎症による障害の結果生じる乾燥症状と他の臓器の障害によって生じる腺外症状に分類されます。
(1)腺症状
主に乾燥症状として認められます。
眼の乾燥(ドライアイ)
涙が出ない ・目がごろごろする ・目がかゆい ・目が痛い ・目が疲れる ・物がよくみえない ・まぶしい ・目やにがたまる ・悲しい時でも涙が出ないなど。
口の乾燥(ドライマウス)
涙が出ない ・目がごろごろする ・目がかゆい ・目が痛い ・目が疲れる ・物がよくみえない ・まぶしい ・目やにがたまる ・悲しい時でも涙が出ないなど。
鼻腔の乾燥
鼻が渇く ・ 鼻の中にかさぶたが出来る ・ 鼻出血があるなど。
その他
唾液腺の腫れと痛みなど。
*その他、乾燥症状に伴った健康障害
口腔乾燥症状による障害
睡眠障害(夜間飲水、頻尿)、倦怠感、味覚低下と食欲低下、体重減少、う歯(虫歯)多発
眼乾燥症状による障害
眼性披露、頭痛、食欲滴下、視力障害、易疲労性
鼻・気道の乾燥による障害
上気道炎の頻発、咳の多発、肺炎になりやすい、痰の喀出困難
消化器の障害
消化不良、疲労感、倦怠感、体重減少など
(2)腺外症状
一般的な症状として倦怠感や微熱のほか、様々な症状がみられます。他の膠原病を持っている方も多いので、どの疾患に伴った症状なのか区別するのが難しいこともあります。
多関節炎はもっとも頻度が高く、手を含む小関節から大関節の多関節痛がしばしば認められます。このほか、レイノー症状、間質性肺炎、間質性腎炎、自己免疫性肝炎、膵炎、高ガンマグロブリン血症、リンパ増殖性病変(悪性リンパ腫など)が認められることがあります。
皮膚症状として、乾燥症状に伴う、眼瞼炎、口唇炎、舌炎などが代表的です。また、免疫学的異常に関連した皮疹の中で特徴的と考えられる環状紅斑があり、本症で高率に陽性となる抗SS-A抗体や抗SS−B抗体と関連すると考えられています。
シェーグレン症候群の診断
乾燥症状から疑いますが、確定診断には診断基準を満たすための検査を行う必要があります。
診断基準
1999年に厚生省の診断基準が改定され、
- 口唇小唾液腺または涙腺の生検組織でリンパ球浸潤がある
- 唾液分泌量の低下がガムテスト、サクソンテストで証明され、シンチグラフィーで異常がある、または唾液腺造影で異常がある
- 涙の分泌低下がシャーマーテストで証明され、ローズベンガル試験または蛍光色素試験で角結膜の上皮障害がある
- 抗SS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である
この4項目の中で2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。
その他の検査所見
血液検査では約70%で高ガンマグロブリン血症を認め、約40%で白血球減少が認められるとされます。疾患特異的自己抗体として、抗SS‐A抗体か抗SS‐B抗体があります。関節リウマチとの合併も多いのですが、リウマトイド因子を高率に認めることも特徴です。
シェーグレン症候群の治療
現時点では根治的な治療方法はなく、症状に対する治療が中心となります。目の乾燥、口の乾燥はひどくなると著しく生活の質(QOL)を障害しますので、毎日の点眼、口腔清潔を心がける必要があります。エアコン、飛行機の中、風の強い所、タバコの煙などに注意が必要です。規則正しい生活、休養、バランスのとれた食事、適度の運動、ストレスを取り除く等の注意も大事です。
(1)眼の乾燥(ドライアイ)に対する治療
涙の分泌を促進する方法として水分や保湿成分の分泌を増やす作用を持つ点眼薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド点眼薬)が適用となり、高い効果をあげています。
涙の補充には人工涙液や種々の点眼薬があります。これらを1日3回以上使用します。点眼薬には防腐剤が入っていますので、何回も点眼するときは防腐剤による角膜障害が問題になります。この場合は普通の点眼の後に防腐剤の入らない点眼薬(生理的食塩水、ソフトサンティア)で洗い流すか、防腐剤のはいらない使い捨ての点眼薬(ヒアレイン・ミニ)を使う方が良いでしょう。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的で、ヒアルロン酸、コンドロイチン、 ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬が使用されます。
涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法がありますので、眼科医に相談して下さい。
(2)口腔乾燥(ドライマウス)に対する治療
シェーグレン症候群の患者さんは虫歯になりやすいので、口内を清潔に保つことが非常に大切です。
唾液の分泌促進、唾液の補充、虫歯の予防や口内の真菌感染予防、口腔内環境を改善することなどが大事です。
唾液分泌を刺激するものとして、シュガーレスガム、レモン、梅干などがあります。 塩酸セビメリン(エボザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者さんに有効で患者さんの評価もかなり良いものです。副作用として消化器症状や発汗などが約30%の患者さんにあります。2007年日本において塩酸ピロカルピン(サラジェン)が保険適用となりました。汗をかきやすいという副作用がありますが、塩酸セビメリンと同様に唾液分泌に有効な薬剤です。
唾液の補充はサリベートや2%メチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜に噴霧した方が口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。
虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとして、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられま す。歯の管理と治療としてブラッシング、歯垢の除去と、禁煙が必要です。食物をやわらかくする、刺激のあるものを避ける、乾燥したもに富んだ食物をとる、糖分を避ける、甘い間食をとらない(ガムはキシリトールガムにする)なども注意しましょう。
(3)全身病変(涙腺、唾液腺以外の臓器障害)に対する治療
重要な臓器(肺、腎臓、筋肉、神経、血管など)の活動性病変(病気の勢いがある、あるいは進行を認める)がある場合には、中等量以上のステロイド、免疫抑制薬を使用します。
関節痛・関節炎に対しては、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)を用い、効果不十分あるいは関節炎が高度の場合には少量のステロイドを考慮します。皮疹に対しては、ステロイド外用を用い、重度の場合にはステロイドの内服を考慮します。
まとめ
シェーグレン症候群は様々な症状がみられます。症状が典型的でなかったり、乾燥症状が強くない場合には早期の診断が難しいこともあります。根本的な治療法のない慢性的な自己免疫疾患ですが、病気の勢いには波があり、乾燥症状以外の症状はみられない方が半数以上です。
食事、睡眠に注意した規則正しい生活、ストレスを避け、リラックスした日常を送り、信頼できる医師と相談しながら上手に病気と付き合っていくことが大事です。
<リファレンス>
シェーグレン症候群診療ガイドライン2017版
シェーグレン症候群(指定難病53)