脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く。)|疾患情報【おうち病院】
記事要約
脊髄小脳変性症とは、小脳を中心とした神経の変性によって生じる疾患を総称です。脊髄小脳変性症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
脊髄小脳変性症とは
小脳を中心とした神経の変性によって生じる疾患を総称して脊髄小脳変性症と呼びます。はっきりした原因が不明の神経障害の一群のことです。脊髄小脳変性症の中には小脳以外にも大脳、脳幹、脊髄、末梢神経に変性がおよぶ場合があり、様々な症状がみられます。
日本では、3万7千人以上の方がこの疾患に対し治療を受けています。脊髄小脳変性症の70%が孤発性(非遺伝性)ですが、孤発性の脊髄小脳変性症の大部分を多系統萎縮症が占めています。脊髄小脳変性症は英語でSpinocerebellar degenerationといい、SCDという略語で表されます。本項では、指定難病病名の区分通り、多系統萎縮症以外の脊髄小脳変性症ついて詳述させていただきます。(多系統萎縮症については別項をご参照ください)。
脊髄小脳変性症の原因
遺伝性の病気の多くは原因となる遺伝子とその異常が判明しています。現在は、その病因遺伝子の働きや病気になるメカニズムに応じて、治療方法が研究されています。
脊髄小脳変性症の多くには、遺伝子は異なっていても、それらに共通する異常や病気のメカニズムがあることも解明されてきています。今後さらに研究が進み、有効性のある根本的治療薬が開発されることが期待されていますが、病気の進行を止める根本的な治療薬は、残念ながら現時点ではなく、症状を和らげる対症療法が行われています。
脊髄小脳変性症の相談目安
起立時・歩行時にふらつく、字が書きにくい、箸がうまく使えない、ろれつが回らない、眼球が細かくゆれる、手足の関節が固くなる、動作が遅くなる、歩行時に前のめりになる、立ちくらみ、排尿障害、脚がつっぱるなどの症状がでてきたときが受診の目安となります。
脊髄小脳変性症の疫学的整理
脊髄小脳変性症(多系統萎縮症は除く。)は国の指定難病の1つで、現在日本では、26601名の方が難病指定を受け治療を受けています。
脊髄小脳変性症の病型
脊髄小脳変性症は、孤発性と遺伝性の2つに大きく分けられます。全体の約70%が孤発性で、約30%が遺伝性です。
孤発性の脊髄小脳変性症には多系統萎縮症と皮質性小脳萎縮症があります。
遺伝性の脊髄小脳変性症では、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝、ミトコンドリア遺伝の遺伝形式のものがありますが、常染色体優性遺伝形式が約90%を占めます。また例外はありますが、病型の名称について、SCA(Spinocerebellar ataxiaの略語)の後に番号をつけて登録されています。わが国ではSCA3(別名 Machado-Joseph病)、SCA6、SCA31、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)が多くを占めます。小児の脊髄小脳変性症の中で多いのは「眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発型失調症」(EAOH/AOA1)という病型があります。
脊髄小脳変性症の主な病型の症状
脊髄小脳変性症は、小脳、脳幹、脊髄などの神経組織に異常が生じる多くの病気の総称です。遺伝性の有無、障害された神経組織の種類などによって、いくつもの病型に分類されています。同じ病型であっても、障害される部位が人によって異なるため、 表れる症状も人それぞれ異なります。
《1》SCA3(Machado-Joseph病/マシャド・ジョセフ病)
日本における優性遺伝性の脊髄小脳変性症の中でも、最も多い病気です。発症年齢によって様々な症状をきたし、1~4型に分類されています。
- 1型:20代で発症し、足が突っ張ってしまう「痙性」や、全身や身体の一部が捻れて硬直してしまう「ジストニア」などの症状が目立ちます。
- 2型:20~40代で発症し、1型の症状に加えて、運動失調症状や、眼が自分の意思と関係なく揺れ動いてしまう「眼振」などの症状をきたします。
- 3型:40代~発症で、筋肉の萎縮や末梢神経の障害がみられます。
- 4型:パーキンソン病のような症状をきたします。非常に稀な病型です。
顔面の筋肉のピクつきや、「びっくり眼」と呼ばれる見開いた目の症状が特徴的ですが、すべての方にみられる症状ではありません。
《2》SCA6
日本の優性遺伝性の脊髄小脳変性症の中で、上述のSCA3に次いで2番目に多い病気です。運動失調症状のみをきたすため、ほぼ純粋な小脳型失調症とされますが、めまい感や足の突っ張りなどの症状をきたしたとする報告もみられます。20~60代で発症し、症状は緩徐に進行します。
《3》歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA:denta-rubro-pallido-luysian atrophy)
日本で多くみられる優性遺伝性の脊髄小脳変性症です。発症は1歳未満から70代と幅広く、運動失調症状の他、若年発症の場合は、てんかんや、身体の一部が無意識にピクッと動く「ミオクローヌス」、進行性の知能低下などがみられます。遅発成人型では、運動失調症状の他に、認知機能低下や性格変化、「舞踏アテトーゼ」と呼ばれる無意識にソワソワして身体の一部が急に動く特徴的な不随意運動などがみられます。
《1》~《3》の病型では、世代を経るごとに発症年齢が若年化し、症状も重くなる「表現促進現象」が知られ、上述の3つの病気のうち、SCA3、DRPLAで特にみられます。母親から遺伝するより、父親から遺伝する場合により強くみられる傾向にあります。
《4》皮質性小脳萎縮症(CCA:Cortical cerebellar atrophy)
孤発性の脊髄小脳変性症の一型です。歩行障害や構音障害で発症し緩徐に進行します。小脳症状が主徴をとしますが、錐体路徴候や末梢神経障害などの小脳外徴候をしばしば併発します。50~70歳代で発症します。
脊髄小脳変性症の診断方法
上記のような臨床症状・家族歴の聴取、遺伝子診断、神経病理学的検査、頭部MRIやCTなどの検査、血液検査などを行い、他疾患を除外した上で診断に至ります。
遺伝子検査によって、病型や、遺伝形式(常染色体優性遺伝性、常染色体、X染色体劣性遺伝性)が判明します。頭部 MRIやCTなどの画像検査では、小脳や脳幹の萎縮を認めることが多いですが、病型や時期によっては大脳基底核病変や大脳皮質の萎縮などを認めることもあります。
血液検査などを行い、脳血管障害、腫瘍、アルコール中毒、ビタミンB1・B12・葉酸欠乏、薬剤性、炎症、甲状腺機能低下症、低セルロプラスミン血症、脳腱黄色腫症、ミトコンドリア病、二次性痙性対麻痺などの原因によるニ次性小脳失調症との鑑別が必要です。
脊髄小脳変性症の重症度分類
下記①modified Rankin Scale、②食事・栄養、③呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上の場合、難病指定の対象となります。
《1》modified Rankin Scale:下記の中で3以上
0 まったく症候がない
1 症候はあっても明らかな障害はない:日常の勤めや活動は行える
2 軽度の障害:発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、 自分の身の回りのことは介助なしに行える
3 中等度の障害:何らかの介助を要するが、歩行は介助なしに行える
4 中等度から重度の障害:歩行や身体的要求には介助が必要である
5 重度の障害:寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする
6 死亡
《2》食事・栄養:下記の中で3以上
0 症候なし
1 時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない
2 食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする
3 食事・栄養摂取に何らかの介助を要する
4 補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする
5 全面的に非経口的栄養摂取に依存している
《3》呼吸:下記の中で3以上
0 症候なし
1 肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない
2 呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある
3 呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活で息切れが生じる
4 喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要
5 気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要
脊髄小脳変性症の日常生活上の注意
起立や歩行の際にふらついて転倒してしまうことがあり、注意が必要です。特に、歩き出しや向きを変えるときにバランスを崩すことが多いです。廊下・お風呂・トイレなど、手すりなどを設置して、つかまることの出来る固定した場所を確保することにより、転倒のリスクを少なくすることが大事です。
病型によっては、進行すると嚥下障害が起こる場合があります。 嚥下障害が合併すると誤嚥性肺炎の危険性が増し、身体に重大な影響を与える可能性があるため、食べ物を細かく刻む、とろみをつけるなど、ご本人が飲み込みやすい食事形態にし、食後の口腔内ケアを励行することが重要です。
食事の際のむせこみに気づいたら、早めに嚥下造影・嚥下内視鏡等の嚥下機能検査を受けていただくことをお勧めします。
<リファレンス>
難病情報センター 脊髄小脳変性症
兵庫県難病相談センター 脊髄小脳変性症
東京逓信病院 脊髄小脳変性症l
医学のあゆみ 脊髄小脳変性症の全体像
多系統萎縮症|clila疾患情報 | clila(クリラ)|女性のための病気・医療情報の検索サービス (anamne.com)