運動性貧血|疾患情報【おうち病院】

記事要約

運動・スポーツが原因で起きる貧血を運動性貧血といい、スポーツ貧血とも呼ばれています。運動能力の高い方は、程度の軽い貧血であっても、スポーツ成績の伸び悩み、パフォーマンスの低下などで自覚される方もいます。この記事では運動性貧血の症状や治療などについて医師監修の基解説します。

運動性貧血とは

貧血とは、血液中で全身に酸素を運ぶヘモグロビンが少ない状態のことを言います。ヘモグロビンは鉄分によって構成されているので、鉄分が不足するとヘモグロビンの量も減ります。そのため体内が酸欠状態になることを貧血(鉄欠乏性貧血)と言います。
その中で運動・スポーツが原因で起きる貧血を運動性貧血といい、スポーツ貧血とも呼ばれています。

運動性貧血の症状

一般的に、貧血になると、息切れやめまい、動悸、倦怠感、頭痛、立ち眩みなどの症状が現れます。貧血の中でも鉄欠乏による鉄欠乏性貧血では、匙状爪、舌炎、異食症などの症状が特異的に出ることもあります。
鉄欠乏の状態は、組織への酸素運搬にも影響を与えるため、アスリートではスポーツのパフォーマンス低下につながります。そのため、運動能力の高いアスリートや運動愛好家では、程度の軽い貧血であっても、スポーツ成績の伸び悩み、パフォーマンスの低下などで自覚される方もいます。

運動性貧血の原因

アスリートや運動愛好家にみられる貧血の多くが、鉄が不足すること、つまり鉄欠乏性貧血により起こります。その要因として、鉄需要の増加、鉄の摂取不足、鉄喪失の増加、鉄吸収の低下や溶血によるもの等が挙げられます。

  • 鉄需要の増加:トレーニングにより筋肉量が増加することや、成長に伴い、鉄需要の増加が起こります。
  • 鉄の摂取不足:極端な食事制限などにより鉄をはじめとした栄養素の摂取不足で起こります。
  • 鉄喪失の増加:発汗、血尿、消化管出血などで起こります。発汗は体温調整のために重要ですが、汗にも鉄が含有されているため発

汗により鉄分の喪失が起きます。
運動により微量の血尿や消化管出血を起こすこともあります。

そのほか、女性は月経での鉄の喪失もあります。なお、厚生労働省の調査(平成21年国民健康・栄養調査)では、日本女性の40%、とくに月経のある20代~40代の女性の約65%で貧血(鉄欠乏性貧血)やかくれ貧血を認めました。また、月経のある女性では鉄分の摂取推奨量は多くなりますが、日本女性は必要量の6割ほどしか鉄分を摂取できていませんでした。 

  • 溶血:足の踵を打ちつけることの多い長距離走や、バレーボールなどのスポーツでは、踵を打ちつけた衝撃で赤血球が壊され、溶血を起こし貧血となります。

運動性貧血の診断

運動性貧血の多くが鉄欠乏性貧血であり、一般的な鉄欠乏性貧血の検査と同じように血液検査を行います。血液検査で赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットを調べます。
 
貧血は 、WHOの基準によって、表1のように定義されています。

アスリートでは、筋肉量が多いため、より多くの鉄が必要となるため、この基準を満たしていなくても貧血症状が出ることがあります。また、この基準値よりも高くてもヘモグロビン値が1.0g/dlほど低下しただけでもパフォーマンス低下につながることもあります。

また、貧血には、鉄欠乏性貧血以外にも悪性腫瘍、感染症、膠原病などの重大な疾患の症状として起きることもあるため、健診などで貧血を指摘された場合には自己判断せずに精密検査を受けることが大切です。

運動性貧血の治療

過度な食事制限やオーバーワークが鉄欠乏性貧血の原因となっている場合、食事の全般的な見直しやトレーニングの強度や量の調整が必要となる場合があります。

食事から摂取する鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。ヘム鉄は、レバーや赤肉、赤身の魚などに多く含まれ、非ヘム鉄は野菜や卵、牛乳などに多く含まれています。ヘム鉄の吸収率は25%ほど、非ヘム鉄の吸収率は3~5%ほどで、ヘム鉄の方が体への吸収率が高くなります。吸収されなかった残りの鉄分は体から排泄されてしまいます。

一般的に、鉄の損失量とこの吸収率を考慮して、鉄分の1日の推奨摂取量は、日本人成人(20~49歳)において成人男性では7.5mg、月経のある女性では10.5mg(月経のない女性:6.5mg)が推奨されています。
食事の見直しで改善が乏しい場合には、治療として経口の鉄剤内服を行うことがあります。

一方で、鉄分を摂りすぎると体に害となることもあります。
1日あたりの鉄分の耐容上限量があるため、直接血管内に入る鉄剤注射を不適切に行うと鉄分がこの量を超えて過剰状態となり、また鉄分を積極的に排泄することができず、鉄毒性を引き起こします。

鉄毒性は、経口内服よりも血管内注射で起こしやすくなります。血清フェリチン値500ng/mL以上が「鉄過剰症(鉄過剰状態)」とされる指標です。 鉄過剰状態が引き起こす鉄毒性になると、頭痛や嘔吐などを認め、それが慢性的な状態になると、肝臓や心臓、内分泌組織(膵臓、甲状腺など)に鉄が沈着し障害臓器を起こし、また発がんとの関係性も考えられています。

経口内服で治療を行う場合にも、定期的に血液検査で治療効果を確認し、適切な量の鉄分摂取を行うことが重要です。

日本陸上競技連盟からアスリートの貧血の予防・早期発見・適切な治療のために「アスリートの貧血対処7か条」が出されています。

1.食事で適切に鉄分を摂取

質・量ともにしっかりとした食事で、1日あたり15~18mgの鉄分を摂れます。普段から鉄分の多い食品を積極的に 食べましょう。

2.鉄分のとりすぎに注意

鉄分を摂りすぎると、体に害になることがあります。1日あたりの鉄分の耐容上限量は男性50mg、女性40mgです。 鉄分サプリメントを摂りすぎると、この量を超えますので、注意しましょう。

3.定期的な血液検査で状態を確認

年に3~4回は血液検査を受けて、自分のヘモグロビン、鉄、フェリチンの値を知っておきましょう。フェリチンは体に蓄えられた鉄分量を反映するたんぱく質で、鉄欠乏状態で最も早く低下する敏感な指標です。ヘモグロビン値は最後に低下しますので、貧血では体の鉄分量は極度に減っています。

4.疲れやすい、動けないなどの症状は医師に相談

疲れやすくパフォーマンスが低下する時は、鉄欠乏状態や貧血かもしれません。早めに医師に相談しましょう。

5.貧血の治療は医師と共に

鉄欠乏性貧血の治療の基本は飲み薬です。医師に処方してもらいます。ヘモグロビン値が正常に回復してからも 3ヶ月間は続けましょう。

6.治療とともに原因を検索

鉄欠乏性貧血には原因が必ずあります。治療を受けるだけではなく、消化器系、婦人科系、腎泌尿器系などの検査 を受けましょう。

7.安易な鉄剤注射は体調悪化の元

鉄剤注射は投与量が多くなりがちで、鉄が肝臓、心臓、膵臓、甲状腺、内分泌臓器や中枢神経などに沈着し、機能障害を起こすことがあります。体調不良とかパフォーマンスが思い通りでない、といった理由で、鉄剤注射を受けることはもっての ほかです。鉄剤投与が注射でなければならないのは、貧血が重症かつ緊急の場合や鉄剤の内服ができない場合です。

〈リファレンス〉

厚生労働省 e-ヘルスネット 貧血
働く女性の健康応援サイト 貧血・かくれ貧血
MSDマニュアル
JAAF 日本陸上競技連盟 
Marc-Tudor Damian,Romana Vulturar,Cristian Cezar Login, Laura Damian, Adina Chis,and Anca Bojan; Anemia in Sports: A Narrative Review; Life (Basel). 2021 Sep; 11(9): 987.

おうち病院
おうち病院