スタージ・ウエーバー症候群|疾患情報【おうち病院】
記事要約
スタージ・ウェーバー症候群は「神経皮膚症候群」の1つで、神経系(脳、脊髄、末梢神経)と皮膚が侵される病気です。スタージ・ウエーバー症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
スタージ・ウェーバー症候群とは
スタージ・ウェーバー症候群は「神経皮膚症候群」の1つです。神経皮膚症候群とは神経系(脳、脊髄、末梢神経)と皮膚が侵される病気です。脳の表面を細かな血管が覆う軟膜血管腫と顔面の赤いあざ、眼圧の上昇を特徴とする生まれつきの疾患です。顔面のあざやてんかん発作で気がつかれることが多く、てんかん、発達障害、運動麻痺、視力障害などが問題になります。脳、皮膚、目の症状の全てが揃うもののみでなく、いずれかが欠ける場合でもスタージ・ウェーバー症候群と診断されます。神経症状は進行性および難治性の経過をとることが多く、予後に最も影響を与えます。
スタージ・ウェーバー症候群の原因
生まれつきの病気ですが、母体妊娠中の感染や薬剤使用などは発生要因になりません。遺伝性の疾患ではなく今までに家族内発症の報告はありません。
明らかな病因は不明ですが、胎生初期の原始静脈叢の退縮不全と考えられています。胎生5~8週に原始静脈叢は静脈系の発生とともに退縮しますが、スタージ・ウェーバー症候群では静脈発生不全があるために原始静脈叢が遺残し、頭蓋内では静脈灌流障害による脳血流低下より、局所神経症状やてんかん発作、精神運動発達遅滞が生じます。顔面を中心とした軟部組織においても静脈系灌流障害により軟部組織の腫脹やポートワイン斑が、眼においても眼圧上昇が生じると考えられています。
近年、9番染色体長腕上に存在するGNAQ遺伝子の単一ヌクレオチド、モザイク変異が報告され、それより毛細血管奇形組織からの診断が期待されています。
スタージ・ウェーバー症候群の疫学的整理
年間50,000〜100,000出生に1人の発症と考えられています。現在の日本の出生数で考えると、1年間に10〜20人の発症があります。成人を含めると本邦には約1,000人の患者さんがいることになります。
スタージ・ウェーバー症候群の症状
頭蓋内軟膜血管腫、顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)、緑内障の三所見が重要とされますが、全てが揃わなくても診断します。毛細血管奇形を有する組織下で血液うっ滞とそれに伴う虚血変化が起こるため、病変の広い例がより重度の障害を呈することになります。
てんかん発作は75~90%の患者に生じ、その約50%は複数の抗てんかん薬治療を行ってもコントロールができない難治性てんかんです。乳児期から発症し、幼児期に発作が軽快する群と難治に経過する群に分かれます。発作型は血管腫部位より推定される焦点発作ですが、動作停止のみなどのわずかな症候であることも多く、注意深い観察が必要です。また一旦発作が起きると重積になる傾向があります。
精神運動発達遅滞は50~80%に見られ、てんかん発作の重症度および軟膜血管腫の範囲に比例します。軟膜血管腫に覆われた直下の脳は萎縮をしていることが多く、局所的な機能不全が生じているため、罹患部位が広いほど、発達遅滞の程度も強くなると考えられます。てんかん発作にともなった発達遅滞か虚血そのものによる症状かの鑑別は重要であり、てんかんに伴い発達遅滞や退行が生じている際には、てんかんの治療を優先させる必要があります。
軟膜血管腫下の脳皮質が虚血に陥るため運動麻痺などの局所神経症状を呈します。症状は虚血の進行とともに緩序に進行する傾向があります。また、てんかん発作も虚血を進行させるため、局所症状の進行を抑えるためにも発作をコントロールすることが重要です。
緑内障は静脈の形成不全と脈絡膜血管腫による静脈血うっ滞による眼圧上昇より生じます。頭蓋内の軟膜血管腫が前方に位置する例で生じやすくなるという部位的な関連があります。眼圧上昇より視力、視野障害が生じ、失明に至ることもあり得ます。
顔面皮膚のポートワイン斑(毛細血管奇形)は、生まれつきの赤〜赤紫色のあざ(母斑)です。母斑自体で顔面の感覚が悪くなる等の機能的な問題はありませんが、美容上からは気になる症状になります。三叉神経第1枝および第2枝領域に生じることが多いですが、必ずしも顔面ポートワイン斑側に頭蓋内軟膜血管腫があるわけではありません。また両側顔面にポートワイン斑を認める例が約10%あるのに対し、約15%では顔面血管腫を認めないことがあります。顔面に赤〜赤紫色の痣(母斑)が生まれつきあります。顔面ポートワイン斑を認める部位には軟部組織の腫脹が併存することが多く、口腔内では咬合不全、摂食不全の原因にもなります。
スタージ・ウェーバー症候群の診断
軟膜血管腫の有無と脳萎縮や石灰化などの付随所見の有無を確認するために、以下の検査が必要となります。
1)画像検査所見
MRI:ガドリニウム増強において明瞭となる軟膜血管腫、罹患部位の脳萎縮、患側脈絡叢の腫大、白質内横断静脈の拡張
CT:脳内石灰化
SPECT: 軟膜血管腫部位の低血流域
FDG-PET: 軟膜血管腫部位の糖低代謝
2)生理学的所見
脳波:患側の低電位徐波、発作時の律動性棘波または鋭波
MRI撮影は、生後6ヶ月未満でのMRI検査では適切な条件で撮影しても偽陰性や過小評価されることがあり、繰り返し検査を行う必要があります。FDG-PETでは発作後数日に渡り高代謝領域が描出されることが知られており、陽性所見が得られた際には病勢を知る目安となります。
発作間欠期の脳波では棘波や鋭波は出現頻度が低いため、てんかん発作の確定と病態把握にはビデオ脳波同時記録を行うと良いとされます。毛細血管奇形部位のモザイク変異としてGNAQ遺伝子の変異(9q21, GNAQ,c.548G>A)が認められます。
顔面ポートワイン斑のないスタージ・ウェーバー症候群はMRIなどの画像診断をしない限りには診断にいたりません。同様に小児の視力・視野障害出現時にも頭蓋内の画像診断を必要とします。
てんかん発作症候は軽微で分かりづらい場合があります。てんかん発作の重症度と精神運動発達遅滞は相関するため、進行性の発達遅滞を生じているときには、てんかん発作の存在を疑う必要があります。知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られ、てんかん発作がコントロールされた後にも継続、進行することがあります。
スタージ・ウェーバー症候群の治療
神経の症状、特にてんかんに対しては、抗てんかん薬による治療がまず行われます。抗てんかん薬により発作が止まる例は50〜60%と考えられています。内服治療を行っても発作が抑制されない例には、発作抑制と発達促進を目的に脳外科手術の適応を考えなければなりません。薬の治療、手術治療の手段に係わらず発作が抑制されることで発達が促されることになります。
緑内障には、眼圧を下げる点眼薬を用いますが、点眼薬による治療で効果が乏しいときには、手術治療を行うこともあります。 顔面の母斑については、皮膚科や形成外科でレーザー治療が行われることが多く、数回にわたるレーザー治療で改善が期待されます。
スタージ・ウェーバー症候群の予後
てんかん発作は適切な抗てんかん薬の投与により約50%で抑制が可能です。幼児期から学童期にかけて発作が軽快する傾向があるという報告もありますが、原因となっている静脈灌流障害は残存しているため、抗てんかん薬の減薬や中止は慎重に行う必要があります。
頭蓋内血管腫の範囲がわずかの例は薬の効果が期待できますが、範囲が広い例では薬での発作抑制は困難なことが多く、脳外科手術による治療を行うことになります。手術において血管腫に覆われた脳を摘出もしくは離断(正常脳から切り離す手術)することで多くの例で発作は抑制されると考えられています。しかしながら、運動野や言語野といった重要な部位も手術操作部になることもあり、その際には後遺症を考えなくてはなりません。小さな子どもでは一旦失った運動機能や言語機能が代償され後遺症は軽減されることが分かっており、最終的な後遺症の程度を予測して手術は行われています。よって、発作を抑制し、発達を促す事が後遺症よりも大きな意味を持つと考えられたときに手術を行うことになるのです。
知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られますが、てんかんに対する治療の他は有効な治療法は報告されていません。教育機関や小児心理士との連携が必要となります。
緑内障は小児期より眼圧の上昇を来してしまう場合には徐々に進行していくことが多く、点眼治療でも手術治療でも抑制することが難しい時があります。
顔面ポートワイン斑は早い治療介入が治療効果に対する良好因子とされます。
成人期までを観察した多数例における長期予後の報告はありません。思春期以降にも自閉傾向、行動異常、発達障害が残存することがあり、就労が困難になるなどの社会生活への不適応が生じています。
スタージ・ウェーバー症候群の日常生活の注意
発達障害を最小限にすることが治療の目標になります。そのためにはてんかん発作の有無を注意深く観察すると同時に、発作を抑制するための治療に専念することが必要です。緑内障がある患者さんでは、ゆっくりと進行することがあるので、目の見えづらさの訴えがなくとも小児眼科医による観察が必要です。
<リファレンス>
スタージ・ウェーバー症候群 難病情報センター 指定難病157
スタージ・ウェーバー症候群 小児慢性特定疾病情報センター 17
難治性血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および 関連疾患についての調査研究
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)