梅毒の診断と治療|疾患情報【おうち病院】

記事要約

梅毒とは、スピロヘータ科の梅毒スピロヘータによる感染症です。梅毒の原因・症状と治療方法・改善対策を解説。

梅毒とは?

昔の病気と思われがちですが、最近は若年者にも増えています。性行為感染症のひとつでもあります。

梅毒はスピロヘータ科の梅毒トレポネーマによる感染症です。梅毒トレポネーマは傷ついた皮膚、粘膜から侵入する。そのほとんどが性感染症で、最近はHIV感染に併発する例が増加しています。梅毒は単純ヘルペスなどとともに陰部潰瘍をきたす原因のひとつであり、HIV感染のリスクも高めます。梅毒と診断した場合にはHIVの検査も行うことも必要です。 

梅毒の症状

4期に分類され、感染力の強い第1期と第2期をあわせて早期梅毒と呼びます。第3期と第4期は晩期梅毒とされ、感染力はほとんどなくなります。また、皮疹のある時期を顕性梅毒、皮疹が見られない時期を潜伏梅毒(無症候梅毒)と呼びますが、潜伏だけで経過することもあります。そのため、術前検査や献血、妊婦健診等で偶然発見される潜伏梅毒が多く、感染時期の発見が困難なことも少なくありません。

また、高齢者では梅毒血清反応が陽性でも感染力のあるトレポネーマが存在することはまずなく、他人に感染させる可能性はまずないので、過剰な対応をしないように注意しましょう。

《1》第1期梅毒(感染後3週間〜3か月)

感染後3週間は無症状に経過します(潜伏期)。3週間後、感染部位と近くのリンパ節でトレポネーマが増殖、初期硬結といわれる硬い、痛みのない結節が感染した部位に生じます。中央が潰瘍化したものは硬性下疳と呼びます。

通常は陰茎や陰部に生じますが、性行為の多様化により口腔内や乳頭、肛囲、手指などに生じることもあるので注意が必要です。

初期硬結から1〜2週間遅れて、鼠径リンパ節が腫れますが、これだは無治療でも数週間で消退することがあります。このため第1期は見過ごされていることもあります。さらに第1期の初期には血清抗体価が陰性のため、非深部からのトレポネーマの検出で診断します。抗体価の上昇はその後みられます。

《2》第2期梅毒(感染後3か月〜3年)

感染薬3か月後から、感染部位で増殖したトレポネーマが血行性に全身に播種する時期となります。この時期には多彩な皮疹がみられ、第2期疹といわれます。この時期に梅毒を疑う事が重要で、第2期疹は2〜3か月ほどで消退し潜伏梅毒となります。

(1)梅毒性バラ疹

第2期疹の中で初期にみられます。1〜2cmほどの淡い紅斑で、体幹や四肢に多発するほか、手掌にも好発します。

(3)丘疹性梅毒

バラ疹よりあとに生じます。紅褐色の硬い扁平に隆起する丘疹で、四肢、顔に散在性に多発します。特徴のある亜型として以下のようなものがあります。

  • 梅毒性乾癬:手掌や足底では角質が厚いために、厚く鱗屑を付した丘疹となり乾癬に似た症状がみられます。手掌の紅斑では梅毒を疑う必要があります。
  • 扁平コンジローマ:陰部、肛囲、腋窩、乳房下部などの間擦部では、浸軟した疣状の丘疹になります。多量のトレポネーマが存在し、強い感染力をもちます。

(3)膿疱性梅毒

毛包一致性の丘疹が、水疱または膿疱となります。全身状態の悪い患者にみられます。

(4)梅毒性白斑

径1cm程度までの類円形の不完全脱色素斑で網目状になることもあります。

(5)梅毒性脱毛

後頭部から側頭部に不完全脱毛斑が虫食い状に多発します。

(6)梅毒性粘膜疹

口腔、咽頭、鼻腔、陰部等の粘膜に生じる灰白色粘膜斑であり、多量のトレポネーマが存在します。

《3》第3期、第4期梅毒

感染後薬3年から第3期となり結節性梅毒やゴム腫が10年後心血管系梅毒と神経梅毒が現れて第4期梅毒となりますが、日本ではほぼ診ることはありません。

原因・感染経路

梅毒は梅毒スピロヘータによる性感染症です。ヒトがこのトレポネーマに感染し、症状があれば顕症梅毒、なければ潜伏梅毒と区別されます。

この感染はほとんどが性交などの直接接触で起こります。輸血や針刺し等による感染もありますが、極めてまれです。性交時に皮膚、粘膜の微細な傷口から感染し、顕症梅毒の場合にはまず感染部位に限局した特有の病変をつくり、やがて血液やリンパ液の流れよって全身に広がります。感染は膣、肛門を解すつ性行為やオーラルセックスを介して生じます。性行為がなくてもトレポネーマの存在する部位から感染することはありえます。

診断方法:梅毒の検査

梅毒は症状から疑い、病変部からのトレポネーマの検出と血液検査での確認で診断されます。

血清反応では脂質抗原法と梅毒トレポネーマ抗原法の定性検査を行い、陽性の場合定量検査を行いますが、その解釈が重要です。

《1》梅毒血清反応

(1)脂質抗原法(STS)

梅毒凝集法、カーボン法(RPR)、ガラス板法などがあります。STSは感染後3〜4週で陽性となります。梅毒の治療効果をよく反映するため用いられます。生物学的偽陽性といって、他の疾患でも陽性になることがあります。(ハンセン病、結核、ウイルス感染症、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの膠原病)

(2)梅毒トレポネーマ抗原法

トレポネーマの菌体成分で感作した血球を用いるTPHA法が代表的です。治癒後も抗体価が下がりにくいので治療効果や治癒の判定には適しません。STSより2〜3週遅れて陽性化します。

(3)トレポネーマの検出

第1期の初期では梅毒血清反応が陰性なので、硬性下疳からのトレポネーマの検出によって診断する。第2期の扁平コンジローマや粘膜疹にもトレポネーマが豊富に検出されます。

治療とその効果判定

《1》治療薬

抗生物質のペニシリンが第一選択です。第1期では2〜4週、第2期では4〜8週で十分です。潜伏梅毒ではSTS抗体価が16倍以上のときには治療が望ましいとされます。ペニシリンアレルギーがある場合にはマクロライド系やテトラサイクリン系を用います。

梅毒に抗菌薬を投与すると数時間で死滅したトレポネーマに対するアレルギー反応で発熱、悪寒、全身倦怠感、皮疹、頭痛などを生じることがあり、予めの説明が必要です。

《2》治療効果の判定

治療終了後は3か月ごとにSTS抗体価を調べます。治療効果はSTS抗体価とよく相関します。感染後長期間経ってから治療すると抗菌薬をきちんと内服しても抗体価は陽性のまま残ることが多いですが、梅毒は治癒しているので感染させることはありません。健康診断や入院時検査で梅毒血清反応陽性を指摘されても、追加治療は不要です。

梅毒治療の目標は、一定期間十分量の抗菌薬を投与してトレポネーマを死滅させることであり、梅毒血清反応を陰性化させることではありません。

予防

《1》予防の基本

性感染症の予防の基本は予防対策(検診率の工場、コンドームの適正使用、学校教育における性教育の充実)と適切な検査、診断と治療です。性感染症の感染リスクの高い性行為による感染の機会を避けるよう指導し、早期似専門医のもとで完全な治療を行う必要があります。

《2》日常生活の注意

梅毒トレポネーマは体の外では死滅しやすく、日常生活で少数の菌に接して感染することがありません。医療関係者は多量の菌を含む感染源には直接触れないよう、特に針刺し事故には注意する必要があります。

梅毒は十分な治療を行えば治癒する疾患ですが、STS抗体価が低下してくると再感染はありえます。性風俗店に頻繁に通う方、性行為に特殊な癖のかる方,HIV感染者などでは再感染のリスクが高くなりますので注意が必要です。

《3》パートナーへの対策

感染するのは梅毒の病変が粘膜面に存在しているときですが、どのような状態であっても梅毒に感染した方と性的関係をもった場合には血液検査を行い、結果に応じて治療を検討する必要があります。 

母子感染

梅毒は胎盤を通じて血行性に母体から胎児に移行します。母体の妊娠のいずれの時期の感染でも胎児への感染がありうると考えておく必要があります。

先天性梅毒の予防は妊婦にスクリーニングと早期の治療です。しかしながら、初期のみでなく妊娠後期にも検査を行うことが望ましいとも考えられています。母体の梅毒感染が判明した場合、児の精査および治療が必要となります。

妊娠初期では死産、流産の可能性が高くなり、妊娠前半期では早期乳児梅毒として早産や低出生体重児が増加します。感染すると新生児期には梅毒の皮膚症状、骨軟骨炎などがみられることがあり、晩発性の症状としてハッチンソン歯、実質性角膜炎、内耳性難聴などをきたすことがあります。

届出

梅毒は「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」によって5類感染症の全数把握に分類されています。医師は診療後7日以内に最寄りの保健所長を通じて都道府県知事に届け出をする必要があります。

まとめ

梅毒は性感染症のひとつであり、社会的偏見もまだまだ少なくありません。医療者は不用意な発言で患者さんにショックを与えないよう注意しなければなりません。きちんと治療することにより治癒する疾患であり、予防も可能です。プライバシーの保護とともにパートナーの治療を含めたトータルでの治療が必要です。

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