全身性アミロイドーシス|疾患情報【おうち病院】

記事要約

全身性アミロイドーシスとは様々な原因により生じたアミロイドと呼ばれる繊維状のタンパク質が複数の臓器に沈着し機能障害を来す状態のことです。全身性アミロイドーシスの原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

1.全身性アミロイドーシスとは

アミロイドーシスとは様々な原因により生じたアミロイドと呼ばれる繊維状のタンパク質が臓器に沈着し機能障害を来す状態のことです。アミロイドーシスには複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性のもの(全身性アミロイドーシス)と、ある臓器に限局してアミロイドが沈着する限局性のもの(限局性アミロイドーシス)に分けられ、​​​​さらに前駆蛋白とそれに対応する臨床病型に分けられます。全身性アミロイドーシスのうち、免疫グロブリン性アミロイドーシス、遺伝性ATTRアミロイドーシス、ATTRwtアミロイドーシスは指定難病でありアミロイドーシスの重症分類で2度以上の場合などは申請し認定されると治療費の一部が助成されます。

<全身性アミロイドーシス>

免疫グロブリン性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)

続発性/反応性アミロイドーシス(AAアミロイドーシス)

遺伝性ATTRアミロイドーシス(旧:家族性アミロイドポリニューロパチー FAP) 

透析アミロイドーシス(β2-ミクログロブリンアミロイドーシス)

ATTRwtアミロイドーシス(旧:老人性全身性アミロイドーシスSSA)​​

<限局性アミロイドーシス>

アルツハイマー病

脳アミロイドアンギオパチー

プリオン病 

2.全身性アミロイドーシスの原因

本症は原因となる蛋白質が凝集してアミロイドとして臓器に沈着して発病することがわかっています。しかし、これまでに31種類のアミロイドーシスが報告されておりアミロイドが生じる過程は、原因蛋白質の種類によって異なると考えられており、その細かな機序については依然不明なままです。以下、病型ごとに原因を分類します。

(1)免疫グロブリン性アミロイドーシス

免疫細胞の仲間である形質細胞に異常が起こり、軽鎖と呼ばれる異常な抗体タンパク質が過剰に作られることにより発生します。このタイプでは形質細胞のがんである多発性骨髄腫という病気を併発する場合があり多発性骨髄腫の患者のうち、約10-20%にALアミロイドーシスがみられます。

(2)続発性/反応性アミロイドーシス

結核や 、関節リウマチ、家族性地中海熱、炎症性腸疾患などの持続的な感染または炎症がおこることによって、肝臓で産生される急性期反応蛋白SAA(血清アミロイドA)に由来するアミロイド蛋白AAが沈着します。このタイプの約90%が関節リウマチに続発します。

(3)遺伝性ATTRアミロイドーシス(旧:家族性アミロイドポリニューロパチー FAP)

常染色体優性遺伝という形式で遺伝する疾患でトランスサイレチン(TTR)という遺伝子の変異によりTTR由来のアミロイド蛋白ATTRが沈着します。

(4)透析アミロイドーシス

透析歴20年以上の患者の約半数に認められます。透析患者の血中に上昇するβ2-ミクログロブリン(β2MG)由来のアミロイド蛋白(Aβ2MG)が沈着します。

(5)ATTRwtアミロイドーシス(旧:老人性全身性アミロイドーシスSSA)

加齢に伴い生じることが多く、野生型TTR由来のアミロイド蛋白ATTRが沈着します。

3.全身性アミロイドーシスの相談目安

本症はアミロイドが沈着する臓器により症状が異なりますが、初発症状は全身のだるさ、体重減少、貧血症状、むくみなどの他の病気でも見られる様な症状であることも少なくありません。他には手が痺れて力が入らなくなる手根管症候群があります。アミロイドの沈着により腱が動かなくなり生じますが、一般の手根管症候群に対しての治療を重ねてもよくならず、詳しい検査をしていくうちに本症に気づくことが多いです。また、巨舌は特徴的な症状で舌を自分で噛むと舌の側面に歯形が残るといったことが見られます。また、難治性の下痢も診断の契機となることがあります。早期発見のためにこれらの症状に心当たりがある場合は医療機関を受診しましょう。特に多発性骨髄腫など類縁疾患はもちろん、長い間、関節リウマチなどの難治性炎症性疾患の治療をしている方でこのような症状が出現する場合は主治医に相談してみましょう。

4.全身性アミロイドーシスの疫学的整理

患者数はそれぞれの疾患によって異なります。免疫グロブリン性アミロイドーシス、遺伝性ATTRアミロイドーシスはそれぞれ国内に数百人、続発性/反応性アミロイドーシスや透析アミロイドーシスについては国内に数千~数万人の患者がいると推測されています。しかし、透析アミロイドーシスの発生率は最新の高流量透析膜の使用に伴い低下しています。
男女差についてはATTRwtアミロイドーシスの場合、​女性よりもはるかに男性に多く見られます。また、遺伝性ATTRアミロイドーシス​​の発病年齢は20〜40歳代ですが、疾患の多い地域以外の家系では50歳以降の高齢発症がみられます。

5.全身性アミロイドーシスの症状

アミロイドが大量に沈着すると、多くの臓器では機能障害が起きます。症状がほとんど出現しない人もいれば、重症で生命を脅かす病気を発症する方もいます。特に注目すべき症状は全身衰弱、貧血、心アミロイドによる心症状、消化器障害、ネフローゼなどの腎症状、手足の痺れなどです。その他にも、多彩な症状が見られます。

心臓:心肥大、うっ血性心不全、心電図異常(房室ブロックなどの伝導障害、不整脈)

腎臓:タンパク尿、ネフローゼ症候群(むくみ)、腎不全

消化器:食欲不振、吸収不良症候群、蛋白漏出性胃腸症、慢性下痢、肝腫大、便秘・下痢、イレウス

末梢神経症状:多発性ニューロパチー(手足の痺れ、麻痺)

自律神経症状:起立性低血圧(立ちくらみ)、ED、排尿障害、発汗障害

出血症状:皮膚、消化管出血

その他:認知症症状、脳出血、巨舌、甲状腺・唾液腺の腫大、関節肥大、手根菅症候群、眼症状 

6.全身性アミロイドーシスの重症化しやすい場合

障害される臓器数が多いほど予後不良です。なかでも心アミロイドーシスは最も予後不良で、心アミロイドーシスを来す病型のうち一般的に予後が悪いのは免疫グロブリン性アミロイドーシスです。

7.全身性アミロイドーシスの診断方法

症状を手がかりに、血液検査・尿検査や心電図、画像検査(心エコー、レントゲン、CT)、消化管内視鏡など検査を行い、臓器障害を詳しく調べます。その上で本症の確定診断のためには臓器にアミロイドがあることを確認する必要があり、アミロイドが蓄積していると思われる部位(心臓、腎臓、肝臓)から細い針を用いて組織サンプルを採取し(生検と言います)Congo Red染色と呼ばれる特殊な染色方法を行い顕微鏡でアミロイドの存在を確認します。障害臓器からの生検が難しい場合はお臍から注射針をさして行う腹壁の脂肪吸引生検や、消化器内視鏡検査下に十二指腸、直腸などから生検を行うこともあります。また、アミロイドーシスは原因蛋白によって病型(タイプ)が分けられており、この分類によって治療方針が変わるため、血清アミロイドAの測定や、尿中免疫グロブリンの軽鎖測定、遺伝子検索を含む病型を分けるための検査も同時に行います。

8.全身性アミロイドーシスの診断の難しさ

生検組織サンプルからそれぞれを識別する特異抗体を用いて免疫組織化学検査を行い病型を決定します。そこからさらにそれぞれに合併しやすい病気の検索や、詳しい臓器障害を調べるための検査を行います。

(1)免疫グロブリン性アミロイドーシス

・M蛋白血症、尿中Bence Jones 蛋白、血清遊離軽鎖(FLC:free light chain)

・骨髄腫の検査(全身骨X線写真、骨髄穿刺、血清蛋白免疫電気泳動)

(2)続発性/反応性アミロイドーシス

・CRPやSAAの持続高値

・関節リウマチなどの慢性炎症性疾患の検索

(3)遺伝性ATTRアミロイドーシス

・TTR遺伝子変異,血清変異TTR,末梢神経障害を示唆する神経伝導検査,99mTc-ピロリン酸心筋シンチグラフィ

(4)透析アミロイドーシス

・手根管症候群,ばね指,破壊性脊椎関節症,脊柱菅狭窄症,骨囊胞の検索

(5)ATTRwtアミロイドーシス

・神経伝導検査などで手根管症候群を検索,99mTc-ピロリン酸心筋シンチグラフィ 

9.全身性アミロイドーシスの治療法

アミロイドーシスに対する治療は病気を治す根本的治療と障害臓器による症状緩和のための対症療法があります。これまでは各々の症状に対する対症療法が中心でしたが、アミロイドーシスの種類によっては根治的治療法が発展してきたものがあります。例えば、遺伝性ATTRアミロイドーシス対する肝臓移植や核酸医薬siRNA(点滴薬)、原発性免疫グロブリン性アミロイドーシスに対する自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法​​​​やボルテゾミブの単独治療などです。また、続発性/反応性アミロイドーシスに対しては抗リウマチ作用を示す様々な生物製剤に加えて、抗IL-6受容体抗体を用いた治療が有効であることが明らかになってきています。

その他、遺伝性ATTRアミロイドーシスやATTRwtアミロイドーシスで末梢神経障害や心筋症がある場合は病気の進行を抑える、あるいはわずかに改善することを目的としてタファミジスというトランスサイレチン安定化薬が使用可能となっています。一方、根本的治療法が確立していない病型や多臓器障害がすでに進行し全身状態が悪く強力な治療が不可能な例も数多く存在し、その場合には対症療法を行います。例えば心伝導障害や不整脈に対する心臓ペースメーカーや薬物治療、下痢・便秘、起立性低血圧に対する薬物療法や全身状態不良に対する支持療法があります。 

10.全身性アミロイドーシスの予後

予後はアミロイドーシスの病型や障害を受けた臓器により異なります。一部の限局性アミロイドーシスはあまり進行しませんが、全身性アミロイドーシスの多くは適切な治療を受けなければ徐々に症状は進行していきます。進行が速い場合は、発病後数年で死に至ることもあります。特に重度の心筋症を合併した免疫グロブリン性アミロイドーシスは予後が最も悪く、その生存期間の中央値は1年未満と言われています。ATTRwtアミロイドーシスは、以前は心臓を侵す全身性アミロイドーシスの中で最も進行が遅いと考えられていましたが、ATTRwtアミロイドーシスの患者の中には診断から中央値4年以内に心不全が悪化し死亡する方もいます。また、続発性/反応性アミロイドーシスの場合は、基礎となる感染症や炎症、または悪性疾患に対する治療の有効性により大きく変わります。

<リファレンス>

難病情報センター 全身性アミロイドーシス(難病指定28)

アミロイドーシス診療ガイドライン2010

腎アミロイドーシスガイドライン2020

日本循環器学会  2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン

植田光晴編著.アミロイドーシス診療ガイドライン2017.2017年

遺伝性ATTRアミロイドーシス

家族性アミロイドポリニューロパチーに対する新規治療,関島良樹,信州医誌,62⑶:185~187,2014

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