全身性エリテマトーデス|疾患情報【おうち病院】
記事要約
全身性エリテマトーデスとは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ炎症性の自己免疫結合組織疾患です。全身性エリテマトーデスの原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
全身性エリテマトーデス(以下SLE)とは
この病気は、自己免疫疾患である「膠原病」のひとつです。英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。systemicとは、全身のという意味で、この病気が全身のさまざまな場所、臓器に、多彩な症状を引き起こすということを指しています。lupus erythematosusとは、皮膚に出来る発疹が、狼に噛まれた痕のような赤い紅斑であることから、こう名付けられました(lupus、ループス:ラテン語で狼の意味)。発熱、全身倦怠感などの症状と、関節、皮膚、そして腎臓、肺、中枢神経などの内臓のさまざまな症状が一度に、あるいは経過とともに起こってきます。比較的若い女性に頻度が高く、副腎皮質ステロイドを中心とした治療を要することが多いので、妊娠や出産にも関わってくる病気です。
全身性エリテマトーデスの原因
残念ながら今のところはその原因は分かっていませんが、「自己抗体」というものがつくられ、自分自身の体を免疫系が攻撃してしまいます。ほぼ全員(98-99%)が、血液中に「抗核抗体」という自己抗体を持っています。
何かのきっかけによって、病気が起こったり、あるいは病状が悪化したりすることがあります。そのきっかけになるもの(誘因)として、紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)、風邪などのウイルス感染、怪我、外科手術、妊娠・出産、ある種の薬剤などがあります。
この病気を持っている母親から同じ病気の子どもが生まれる頻度は低いながらも一般の人の発症頻度よりも高いと考えられています。遺伝子が同じと考えられる一卵性双生児で発症する頻度は25-60%程度とされており、いわゆる遺伝病ではなく、何らかの環境要因や偶然の要素が考えられています。発症に関わる遺伝子の研究も進められています。
相談の目安
特徴的な皮疹がみられることもありますが、原因不明の発熱や倦怠感、関節痛などが初発症状のこともあります。SLEを含めたいくつかの膠原病は不明熱の原因疾患としても重要ですので、気になる症状が続いたら相談しましょう。
疫学的整理
日本全国に約6~10万人程の患者さんがいると考えられています。2013年にSLEとして難病の申請をしている方は、61,528人ですが、申請をしていない方、医療機関に受診していない方などを含めると、この2倍位の人がこの病気をもっていると推定されています。
たくさんの人種が生活しているアメリカ合衆国での調査によると、この病気は、白色人種には比較的少なく、アフリカ系アメリカ人などの有色人種に多いといわれています。ある特定の地域での発生も報告されていますが、日本においては、地域差などは見られません。
平均すると男女比は1:9ほどで、圧倒的に女性に多い病気です。なかでも生理が始まってから終わるまでの期間に多く、子供、老人では、逆に男と女の差が少なくなります。すべての年齢に発症しますが、子供を産むことの出来る年齢、特に20-40歳の女性に多く発症します。最近、発症年齢がやや高齢化してきています。
全身性エリテマトーデスの症状と診断
(1)症状
1)全身症状
発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振など
2)関節症状
手や指が腫れ、多発関節炎を起こします。肘、膝などの大きな関節や手の指など、日によって場所が変わる移動性の関節炎が見られることもあります。
3)皮膚症状
もっとも有名なのは、頬に出来る赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑と呼ばれています。 皮膚をさわると、発疹が重なりあい、少し盛り上がっているのが特徴です。同じ、頬に出来るものでも、盛り上がりのない、ハケで薄紅色の絵の具をぬったような紅斑も見られます。また、一つ一つが丸く厚みのある円板状皮疹もこの病気に特徴的です。顔面、耳介、頭部、関節背面などによくみられます。
4)日光過敏症
強い紫外線にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水疱、発熱などがみられることがあります。この症状が、病気の始まりであることも少なくありません。しかし、この病気以外にも、日光過敏症を起こす病気がいくつかありますので、それらとの区別が必要です。
5)口内炎
多くは、口の奥、頬にあたる部位や上顎側に出来る粘膜面がへこんだもので、痛みが無く自分で気付かないことがしばしばあります。
6)脱毛
朝起きたときに、枕にこれまでなかったほどたくさん髪の毛がつくようになります。また、円形脱毛のように、部分的に髪の毛が抜けたり、全体の髪の量が減ったりすることもあります。また、髪が傷みやすく、髪の毛が途中から折れてしまう場合もあります。
7)臓器障害
内臓病変の有無と程度がこの病気の一番の問題になります。様々なものが知られています。すべての症状が起こるわけではなく、一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の数が違います。全く臓器障害のない、軽症の人もいます。
特に問題となるのは、腎臓(ループス腎炎と呼ばれることがあります)、神経精神症状、心病変、肺病変、消化器病変、血液異常などであり、生命に関わる重要な障害になることがあります。きちんとした診断と治療が必要です。
《1》肺
深呼吸をしたときに痛みを感じることがよくあります。この痛みは、肺を覆う膜(胸膜)に繰り返し発生する炎症(胸膜炎)によるもので、ここに胸水がたまる場合と、そうでない場合があります。最終的に、また、まれではありますが生命を脅かすような肺への出血が起こることがあります。血のかたまり(血栓症)が原因で、肺の動脈に閉塞が起こることもあります。
《2》心臓
全身性エリテマトーデスでは、心膜炎によって、胸痛が起こることがあります。まれではありますが、より深刻な心臓への影響として狭心症や心筋炎、まれに心臓の弁が侵される場合もあり、手術による修復が必要になることもあります。母親に全身性エリテマトーデスと特定の抗体(抗Rho抗体/抗SSA抗体)がみられる乳児には、生まれつき心ブロックがみられることがあります。
《3》リンパ節と脾臓
広範囲にわたるリンパ節の腫れ、脾臓の腫大(脾腫)が全身性エリテマトーデス患者の約10%に認められます。
《4》神経系
脳が侵されると(神経精神ループス)、頭痛、軽度の思考障害、人格の変化、脳卒中、けいれん発作、重度の精神障害(精神病)が起こることや、脳にいくつかの物理的変化が起こりうる病気が発生し、認知症などに至ることがあります。
《5》腎臓
腎臓の異常としては、軽微で何の症状も起きないこともあれば、進行し死に至ることもあります。透析を必要とする腎不全を発症することもあります。腎臓は、どのタイミングでも侵されることがあり、また全身性エリテマトーデスで腎臓だけが侵される場合があります。最も多くみられる腎臓の障害は、脚のむくみ(浮腫)につながる高血圧とタンパク尿です。
《6》血液
赤血球、白血球、血小板の数が減少することがあります。血小板には、血液の凝固を助ける働きがあるため、血小板の数が大きく減少すると、出血が起こることがあります。また、抗リン脂質抗体症候群を合併して血液が非常に凝固しやすくなっている場合があり、血栓や流産の原因となります。
《7》消化管
吐き気、下痢、腹部の漠然とした不快感がみられることがあります。これらの症状は、再燃の前兆である場合もあります。消化管の様々な部分への血液供給の障害により、強めの腹痛、肝臓または膵臓の損傷、または消化管の閉塞や穿孔が発生することがあります。
8)妊娠
妊娠している女性の患者では、正常よりも流産や死産のリスクが高くなります。妊娠中や分娩直後に再燃がよくみられます。過去6カ月の間に全身性エリテマトーデスが制御されていない場合、医師は女性に妊娠を勧めていません。
(2)診断
長らく1997年に提唱されたSLE分類基準が用いられてきました。これは下記11項目のうち4項目を満たすとSLEと診断するというものです。
- 頬部紅斑(蝶形紅斑)
- 円板状紅斑
- 日光過敏
- 口腔潰瘍
- 関節炎
- 漿膜炎
- 腎障害
- 神経障害
- 血液以上(血球減少など)
- 免疫異常
- 抗核抗体陽性
血液検査は本症の診断に重要です。赤血球、白血球、血小板の減少、 抗核抗体のほか特異的な自己抗体(抗Sm抗体、抗dsDNA抗体、抗リン脂質抗体、抗カルジオリピン抗体など)、低補体血症などが分類基準にも含まれる所見です。
最新の分類基準では、重症度で得点をつけ10点以上でSLEと分類しています。
【SLE 分類基準 ACR/EULAR 2019(4)】
全身性エリテマトーデスの治療
自分自身に対する免疫を抑えるため、副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制効果のある薬を使います。病気の重症度によって、治療に必要な投与量を決めます。この副腎皮質ステロイドは、腎臓の上にある副腎皮質という場所から出ているホルモンを化学的に作ったもので、代表的なものはプレドニゾロンです。一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。一般的に、重症の方では、一日60-80mgを必要としますし、軽症の人では15mg程度で十分のこともあります。最初2週間から一ヵ月この量を続け、徐々に減らして5-10mg前後を維持療法として長期に飲み続けることが多いです。
また、重症度の高い方には副腎皮質ステロイドを3日間、点滴で大量に使用するステロイドパルス療法を行うこともあります。
このほか、副腎皮質ステロイドが効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制薬を使うことがあります。標準的治療等のヒドロキシクロロキンが2015年に我が国でも承認されました。皮膚症状や倦怠感などの全身症状での軽減に効果が認められています。
血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併している方では、小児用バッファリン、ワーファリンなどによって、血栓の予防を行います。
また、腎不全のときの透析療法など、その病状に合わせて治療が行われます。また血行障害の強い方では、血管拡張薬などが使われます。
妊娠について
妊娠している女性の患者では、正常よりも流産や死産のリスクが高くなります。妊娠中や分娩直後に再燃がよくみられます。過去6カ月の間に全身性エリテマトーデスが制御されていない場合、医師は女性に妊娠を勧めておらず、全身性エリテマトーデスが活動性ではなくなったと判断されるまで妊娠を遅らせるべきです。抗リン脂質抗体症候群の合併など、血栓のリスクがある妊婦には、低用量のアスピリンまたはヘパリンが投与されることがあります。
全身性エリテマトーデスの経過
臓器障害の広がりや重さによって、病気の重症度が異なります。関節炎や皮膚症状だけの方は、薬剤によるコントロールも難しくなく、健康な方とほとんど変わらない普通の生活が出来ることが期待されます。一方、腎臓障害、中枢神経病変、心臓病変、肺病変、血管炎などの臓器障害がある場合には、多種類の薬剤を大量に長期にわたって使わなければならないことがあります。
現時点では、副腎皮質ステロイドがこの病気の治療には不可欠の薬として知られています。このほかにも様々な治療法が進化しており、発症して5年以上の生存率は現在では95%以上にまで改善しています。しかし、病型によって、ステロイドの効きやすい場合と効きにくい場合があります。
高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、高血圧など)などに対する対策も必要です。しかし、治療の結果抑えられた り感染症が起こりやすく、これ生命予後に大きな影響を与えています。そして、これらの欠点が少ない、より理想的な薬の開発が多くの国で行われています。
副腎皮質ステロイドの長期的な使用は、骨粗鬆症の原因となることがあるため、定期的に骨粗しょう症の検査を受け、必要であれば治療を受けます。長期間にわたって高用量のコルチコステロイドを服用する患者には、骨粗しょう症の予防に役立てるために、骨密度が正常な場合でもカルシウムやビタミンDのサプリメント、ビスホスホネート系薬剤などを投与します。
日常生活の注意
経過が長期に渡るため、医師との信頼関係のもとに病気や治療方針、薬の副作用などを正しく理解することが必要です。副腎皮質ステロイドの副作用としての感染症の注意も重要です。。
病気の活動性が高いときには安静が必要ですが、病状が安定すれば妊娠、出産も可能です。過度の疲労、寒冷、日光照射を避け、バランスのとれた食事を心がけ、上手に病気と向き合いましょう。
<リファレンス>
難病情報センター 全身性エリテマトーデス(指定難病49)
日本リウマチ学会 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019