全身性強皮症|疾患情報【おうち病院】

記事要約
全身性強皮症とは、皮膚や内臓が硬くなってしまうことです。全身性強皮症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
全身性強皮症とは
全身性強皮症は膠原病のひとつであり、皮膚および肺、心臓、腎臓、消化管などの内蔵諸臓器が硬くなる変化(硬化といいます)を特徴とし、慢性に経過する疾患です。しかし、硬化の程度、進行などについては患者さんによって様々です。
この点から、全身性強皮症を大きく2つに分ける分類が国際的に広く用いられています。典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と、比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」です。前者は発症より5~6年以内は皮膚の硬化が進行することが多いのですが、後者の軽症型では皮膚硬化の進行はほとんどないか、あるいは緩徐です。
なお、「限局性強皮症」は皮膚のみに硬化が起こる全く別の病気であり、前述の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」とは全く異なるものです。
全身性強皮症の原因
全身性強皮症の病因は複雑であり、その病態は十分には解明されていません。しかし、これまでの研究により(1)免疫異常、(2)線維化、(3)血管障害、これら3つの異常と深い関連性を有することが明らかとなってきました。しかし、その相互関係や病因についてはまだ不明です。
疫学
本邦での全身性強皮症患者は6000人以上と推定されています。全身性強皮症はレイノー症状で発症することが多いのですが、その中には皮膚硬化がゆっくりとしか進行しない患者さんも多く、病気に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあります。このような軽症型の全身性強皮症を含めると患者数は数倍以上になると推定されています。
米国の調査によると、典型的な全身性強皮症の患者さんに、比較的症状の軽い全身性強皮症患者さんを加えると、人口5,000人当たり1.38人が全身性強皮症に罹患しているといわれています。ですから、ごく軽い患者さんを含めると、おそらく人口1,000人に1人ぐらいがこの病気にかかっていると考えられています。
全身性強皮症の症状
診断には皮膚所見が重要です。内臓病変も多彩ですが、主には以下のようなものがあります。診断がついたら症状はなくても可能性のある内臓の合併病変がないかどうかを検査します。
初発症状としてはレイノー症状(後述)で気づくことが多いとされます。
《1》皮膚症状
(1)皮膚硬化
もっとも特徴的な皮膚症状は、四肢末端(特に手指)から中枢側に向かって見られる皮膚硬化です。最初は浮腫状に腫れぼったいこともあります。手指の皮膚硬化は初期からみられる、ほぼ必須の症状です。手指に硬化がとどまる「限局皮膚硬化型全身性強皮症(以下限局型)」と、より前腕や体幹、顔面などにもおよぶ「びまん皮膚硬化型全身性強皮症(以下びまん型)」に分けられます。固くなった皮膚は光沢をともなうことがあります。
顔面に皮膚硬化が及ぶと仮面様顔貌とよばれるやや無表情な外観を呈します。開口障害(小口症)がみられることもあります。経過が長くなると硬化した皮膚は萎縮し、正常にみえることもあります。
(2)手指尖の虫食い状瘢痕
手指先に見られる小さな瘢痕様の症状です。小潰瘍を伴うこともありますが、潰瘍がなくてもみられることがある特徴的な症状です。
(3)舌小帯の短縮
舌小帯(舌を持ち上げると下面の中央にある白い線維状のもの)が固くなり、白色化または短縮して観察されます。
(4)びまん性色素沈着
皮膚硬化が進行すると体幹や顔面に色素沈着や色素脱失がみられます。
(5)爪上皮の出血点
爪のいわゆる甘皮のところに、点状の出血点が比較的早期から見られます。これが3指以上にみられるばあいには、強皮症および皮膚筋炎の特異性が高いとされます。
《2》血管障害
(1)レイノー症状
本症の約半分はレイノー症状で始まり、全体では90%以上の方にみられます。指の血管の攣縮(れんしゅく)により典型例では虚血(白色)⇨チアノーゼ(紫色)⇨血流の増加(赤)という色調の変化がみられます。寒冷刺激により生じやすくなります。
(2)皮膚潰瘍、壊疽
指の動脈閉塞により指先の皮膚潰瘍を生じます。
《3》内臓病変
(1)肺・心臓
肺線維症の程度は様々ですが、びまん型では80%以上、限局型では10%程度で認められます。重症例では予後に関わる重要な合併症です。
このほかに肺高血圧症も予後に関わる合併症で、限局型でもみられることがあります。心筋の伝導障害、心筋炎、胸膜炎などを合併することもあります。
(2)消化管病変
食道の動きが悪くなったり、拡張してしまう所見は比較的早期からみられ、進行すると逆流性食道炎を生じます。胸焼け、胸骨部不快感、嘔気などを生じます。
(3)腎病変
強皮症クリーゼとよばれる突然の悪性高血圧を生じることがあります。頭痛、嘔吐、視力障害などの症状を生じますが本邦では比較的稀です。
(4)その他
関節・骨病変としては関節炎、手指屈曲拘縮、指末端骨吸収など、筋肉の病変として筋炎、筋萎縮などがみられることもあります。
臓器特異的な自己免疫性疾患(シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、原発性胆汁性肝硬変)のほか、様々な他の膠原病を合併もみられます。シェーグレン症候群の合併は数十パーセントにみられるとされます。
<診断基準>
全身性強皮症・診断基準 2010年
大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化*
小基準
1)手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
2)手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮**
3)両側性肺基底部の線維症
4)抗Scl-70 (トポイソメラーゼI)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
診断のカテゴリー
大基準、あるいは小基準1)かつ2)~4)の1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断
*限局性強皮症(いわゆるモルフィア)を除外する。
* *手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く。
全身性強皮症の検査所見
全身性強皮症では抗核抗体は高率に陽性であり、このほかに抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗U1RNP抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体などが検出されます。
前述した「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体が、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」では抗セントロメア抗体が陽性となりやすく、特異性の高い重要な所見です。
そのほかには、各種内臓疾患の合併や他の膠原病のオーバーラップがしばしばみられるので、それらに関する血液検査なども一通り必要です。
内臓病変に関しても定期的な経過観察が必要です。特に肺線維症の進行や肺高血圧の発症などについては初期は無症状なので早期発見が重要となります。
全身性強皮症の治療方法
現在のところ、全身性強皮症を完治させる薬剤はありませんが、ある程度の効果を期待できる治療法は確立されてきています。
(1)ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)、(2)シクロホスファミド(肺線維症に対して)、(3)プロトンポンプ阻害剤(逆流性食道炎に対して)、(4)プロスタサイクリン(血管病変に対して)、(5)ACE阻害剤(強皮症腎クリーゼに対して)、(6)エンドセリン受容体拮抗剤(肺高血圧症に対して)などが挙げられます。
既に研究班では、内臓各臓器ごとの重症度分類を作成し、その重症度に従って最も適切と考えられる治療の選択肢を示した全身性強皮症の診療ガイドラインを策定しています。
全身性強皮症の予後
全身性強皮症の経過を予測するとき、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」の区別が役に立ちます。
「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行及び内臓病変が出現するため、できる限り早期に治療を開始し、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要です。
一方、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」では、その皮膚硬化の進行はなく、あってもごく緩徐であす。また、肺高血圧症以外重篤な内臓病変を合併することは少なく生命予後は良好です。
日常生活の注意
びまん皮膚硬化型の重症型、重篤な内臓病変の合併した場合を除いては、比較的生命予後は良好な疾患です。しかし、皮膚病変や末梢循環障害により日常生活に支障をきたすこともしばしばあります。それぞれの患者さんの状態、重症度、内臓合併症、治療薬や生活環境などを考えての指導が必要です。一番大事なのは患者さん自身は病気を正しく理解して積極的な姿勢で上手に付き合っていくという気持ちになることです。
末梢循環障害は多くの方にみられるので、寒冷刺激を避けることが重要です。レイノー症状に対して保温できるものを持ち歩くなどの注意も必要です。
逆流性食道炎も多くの方にみられるので、胃酸の分泌を促すような刺激物の摂取は減らし、食事の量を増やして回数を減らすなどの工夫も必要となります。
皮膚の乾燥から傷となり潰瘍を生じやすいので、日常の保湿などの手入れとともに、関節部などの潰瘍を生じやすい部位はあらかじめサポーターで保護するなど日頃からの予防が大事です。