高安動脈炎|疾患情報【おうち病院】
記事要約
高安動脈炎とは、大動脈およびその基幹動脈、冠動脈、肺動脈に生じる血管炎です。高安動脈炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
高安動脈炎とは?
高安動脈炎は大動脈およびその基幹動脈、冠動脈、肺動脈に生じる血管炎です。
かつては大動脈炎症候群とよばれていましたが、2014年の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)の成立に伴い、指定難病としての病名を高安動脈炎に変更されました。
本症は大血管炎だけではなく、小血管、消化管、心臓、皮膚、眼、耳など様々な臓器・組織に病変を生じる全身性の疾患です。
欧米には本症が少なく、逆に巨細胞性動脈炎が多いため、両者の異同が問題となっています。
病理学的に共通した部分はありますが、本症と高齢者に好発する巨細胞性動脈炎は発症年代が異なります。また、病変となる血管の分布も異なり、日本人症例の検討では、本症で巨細胞性動脈炎よりも総頚動脈および鎖骨下動脈病変の割合が有意に多いとされます。
欧米からの報告でも,総頚動脈病変は本症で多い傾向です。したがって、現状では、本症と巨細胞性動脈炎とは、共通した発症基盤をもつ異なっ た疾患単位と考えるのが妥当とされます。
人種や地域差がありますが、わが国では若い女性に好発します。主な症状は全身の炎症、血管炎による疼痛と血管狭窄・閉塞・拡張であり、そのため炎症がおさまった後も血流障害による各種臓器障害や動脈瘤が問題となります。症状は多彩で非特異的ですが、早期診断が可能となってきており、予後は改善しています。
高安動脈炎の原因
原因は不明です。遺伝的な要因を背景にして、なんらかの感染を契機にして発症し、血管の炎症が持続しているのではないかと推測されています。
近年の遺伝子研究の成果として、高安動脈炎発症の原因の一部に遺伝的な要因が作用している可能性が示され、遺伝的要因も重要と考えられていますが、家族内で遺伝するケースは非常にまれです。
遺伝的要因を背景に、感染などの環境要因がきっかけとなり、大動脈を主体とした弾性動脈が自己免疫機序により破壊されると推定されています。
高安動脈炎の疫学的整理
本疾患は厚生労働省の指定難病であり、調査研究班で疫学的な検討が行われています。
現在の登録数は6,000人を超え、毎年の新規発症数は300人前後と推定されています。
現在の年齢分布は50代が多く、これまでの報告では男女比は約1:9で、女性における初発年齢は20歳前後にピークがありますが、中高年で初発する例もまれではありません。
最近の厚生労働省での登録データのまとめでは、女性が 83.8%、平均発症年齢は女性で35歳、男性では43.5歳となっています。数は少ないですが、10歳未満の発症もあります。
高安動脈炎の海外動向
世界的にはアジア、中近東での症例が多く、北米ではメキシコを除き報告は少ないとされます。
いずれの地域でも女性に多い傾向がみられますが、本邦における比率がもっとも高くなっています。
本邦および南米では頚動脈病変が特徴的ですが、イスラエルをはじめとするアジア諸国では腹部大動脈を主とした病変による高血圧が多いとされています。
高安動脈炎の症状と診断
高安動脈炎ではどの血管に障害が生じたかにより、症状が異なります。
高安動脈炎の初期は、発熱や全身倦怠感、食欲不振、体重減少などの感冒のようなはっきりしない症状から始まることが多く、その後、炎症によって血管が狭搾や閉塞、あるいは拡張することによる様々な症状を生じます。
頭部を栄養する血管が障害を受けた場合は、めまいや立ちくらみ、失神発作や、ひどい場合には脳梗塞や失明をに至る場合もあります。難聴や耳鳴、歯痛、頸部痛もよく見られる症状です。また、上肢を栄養する血管が障害を受けると、腕が疲れやすい、脈が触れないなど多様な症状が出現します。
また、高安動脈炎の約3分の1の患者さんでは心臓の大動脈弁付近に障害を生じて弁膜症を発症し、程度によってはその後、心臓の働きに問題が生じることがあります。
また、腎臓の血管が障害されて、腎臓の働きが低下することもあります。さらに、下肢を栄養する血管が障害を受けて歩行が困難になる方もいます。
血管が障害されるため、高血圧症はよく見られる症状です。
高安動脈炎に特徴的な血液検査 はありませんが、現時点では非特異的な炎症の指標である CRPの上昇や赤血球沈降速度(血沈)亢進が診断に有用です。
主な臨床症状の頻度は以下の通りです。
- 頭頸部症状(めまい、頭痛、失神発作、片麻痺など) 47.5%
- 眼症状(失明、視力障害、眼前暗黒感) 14.3%
- 上肢症状(脈なし、収縮期血圧左右差、冷感、しびれ感) 66.4%
- 心症状(息切れ,動悸,胸部圧迫感 ) 37.8%
- 呼吸器症状(血痰、咳、呼吸困難) 10.8%
- 高血圧 38.0 %
- 下肢間欠性跛行 9.5%
- 全身症状(発熱,全身倦怠感,易疲労感) 74.9 %
高安動脈炎の診断基準
A.症状
- 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、リンパ節腫脹(頸部)、若年者の高血圧 (140/90mmHg以上)
- 疼痛:頸動脈痛、胸痛、背部痛、腰痛、肩痛、上肢痛、下肢痛
- 眼症状:一過性又は持続性の視力障害、眼前明暗感、失明、眼底変化(低血圧眼底、高血圧眼底)
- 頭頸部症状:頭痛、歯痛、顎跛行※a、めまい、難聴、耳鳴、失神発作、頸部血管雑音、片麻痺
- 上肢症状:しびれ感、冷感、拳上困難、上肢跛行※b、上肢の脈拍及び血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱、消失、10mmHg以上の血圧左右差)、脈圧の亢進(大動脈弁閉鎖不全症と関連する)
- 下肢症状:しびれ感、冷感、脱力、下肢跛行、下肢の脈拍及び血圧異常(下肢動脈の拍動亢進あるいは減弱、血圧低下、上下肢血圧差※c)
- 胸部症状:息切れ、動悸、呼吸困難、血痰、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈、心雑音、背部血管雑音
- 腹部症状:腹部血管雑音、潰瘍性大腸炎の合併
- 皮膚症状:結節性紅斑
※a 咀嚼により痛みが生じるため間欠的に咀嚼すること
※b 上肢労作により痛みや脱力感が生じるため間欠的に労作すること
※c「下肢が上肢より10~30mmHg高い」から外れる場合
B.検査所見
画像検査所見:大動脈とその第一次分枝※aの両方あるいはどちらかに検出される、多発性※bまたはびまん性の肥厚性病変※c、狭窄性病変(閉塞を含む)※dあるいは拡張性病変(瘤を含む)※d の所見
※a大動脈とその一次分枝とは、大動脈(上行、弓行、胸部下行、腹部下行)、大動脈の一次分枝(冠動脈を含む)、肺動脈、心とする。
※b多発性とは、上記の2つ以上の動脈または部位、大動脈の2区域以上のいずれかである。
※c肥厚性病変は、超音波(総頸動脈のマカロニサイン)、造影CT、造影MRI(動脈壁全周性の造影効果)、PET-CT(動脈壁全周性のFDG取り組み)で描出される。
※d狭窄性病変、拡張性病変は、胸部X線(下行大動脈の波状化)、CT angiography、 MR angiography、心臓超音波検査(大動脈弁閉鎖不全)、血管造影で描出される。上行大動脈は拡張し、大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい。慢性期には、CTにて動脈壁の全周性石炭化、CT angiography、 MR angiographyにて側副血行路の発達が描出される。
画像診断上の注意点:造影CTは造影後期相で撮影。CT angiographyは造影早期相で撮影、三次元画像処理を実施。血管造影は通常、血管内治療、冠動脈・左室造影などを同時目的とする際に行う。
C.鑑別診断
動脈硬化症、先天性血管異常、炎症性腹部大動脈瘤、感染性動脈瘤、梅毒性中膜炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、血管型ベーチェット病、IgG4関連疾患
<診断のカテゴリー>
確定: Aのうち1項目以上+ Bのいずれかを認め、Cを除外したもの。
(参考所見)
- 血液・生化学所見:赤沈亢進、CRP 高値、白血球増加、貧血
- 遺伝学的検査:HLA-B*52またはHLA-B*67保有
高安病の重症度分類
III度以上を対象とする。
I度 |
高安動脈炎と診断しうる自覚的(脈なし、頸部痛、発熱、めまい、失神発作など)、他覚的(炎症反応陽性、上肢血圧左右差、血管雑音、高血圧など)所見が認められ、かつ血管造影(CT、MRI、MRA、FDG-PETを含む)にても病変の存在が認められる。 ただし、特に治療を加える必要もなく経過観察するかあるいはステロイド剤を除く治療を短期間加える程度。 |
II度 |
上記症状、所見が確認され、ステロイド剤を含む内科療法にて軽快あるいは経過観察が可能 |
III度 |
ステロイド剤を含む内科療法、あるいはインターベンション(PTA)、外科的療法にもかかわらず、しばしば再発を繰り返し、病変の進行、あるいは遷延が認められる。 |
IV度 |
患者の予後を決定する重大な合併症(大動脈弁閉鎖不全症、動脈瘤形成、腎動脈狭窄症、虚血性心疾患、肺梗塞)が認められ、強力な内科的、外科的治療を必要とする。 |
V度 |
重篤な臓器機能不全(うっ血性心不全、心筋梗塞、呼吸機能不全を伴う肺梗塞、脳血管障害(脳出血、脳梗塞)、虚血性視神経症、腎不全、精神障害)を伴う合併症を有し、厳重な治療、観察を必要とする。 |
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
高安動脈炎の治療
まず、高安動脈炎による炎症を抑えることが基本になります。通常、プレドニゾロン(PSL)などの副腎皮質ステロイドを用います。緊急度の高い場合や難治例の再燃時に、 開始または 増量の前にステロイドパルス療法が行われることもあります。
高安動脈炎は再燃しやすいため、PSLの減量は症状や炎症所見のマーカーとなる血液検査を参考に、慎重に行います。2週ごとに5 mgずつ10 mg/日まで、以降は2週ごとに2.5 mgずつ維持量まで減量、その後も比較的ゆっ くりと減量することが勧められています。再燃を防ぐ必要最小限の PSL量を 5~10 mg/日と定 める方針が一般的です。
炎症が強く、なかなかステロイドが減量できない場合は、しばしば免疫抑制薬などを併用します。
免疫抑制薬としてはメトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなどが使用されます。
また、高安動脈炎の患者血清でIL-6濃度が疾患活動性と相関して上昇することが報告されており、近年新たな治療薬として、IL-6受容体阻害薬であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ®)が2017年8月に治療薬として認められました。生物学的製剤であるTNF-α阻害薬(多くはインフリキシマブ)や抗CD20抗体であるリツキシマブについても一定の効果が示されています。
ただし、現在、我が国では保険未収載です。また、血栓ができるのを予防する必要があります。
抗血小板薬(アスピリン)を内服すると急性心筋梗塞、不安定狭心症、一過性脳虚血発作、脳卒中、急性下肢虚血、急性腸管虚血などの、血管閉塞による急性虚血イベン トの発症は有意に抑制されると報告されています。これ以外に、血管の流れを改善させる血管拡張薬、血栓を作らないようにする抗凝固薬や抗血小板薬、血圧を下げる降圧薬などが必要に応じて使用されます。
治療後の見通しで重要となるものは、腎血管の障害による重症高血圧や、大動脈弁が障害されることによる心不全、心臓自体に流れる血流が障害されることによる心筋梗塞、動脈瘤などです。画像検査の普及で早期発見が可能となったこともあり、より早期に治療を行うようになったため、以前よりも長期生存が可能となっています。
高安動脈炎は原則として内科的な治療を行いますが、血管病変が進行した場合、外科的治療が必要となることもあります。進行した大動弁脈閉鎖不全に対しては、弁を置換したり人工血管に置換したりします。
心臓に分布する血管である冠動脈の狭窄に対しては、血管の通りを良くする血行再建術や他の部位の血管を利用したバイパス術、大動脈瘤に関しては、人工血管置換術などが治療選択肢となります。本症の研究班の統計では約2割の方が手術を受けておられます。
高安動脈炎の経過
大部分の方は副腎皮質ステロイドなどの治療により、炎症を鎮静化させることができます。現在は様々な画像診断や治療の進歩もあり、高安動脈炎の予後は改善しています。しかし、高血圧、心臓の弁膜症、腎臓障害などの合併症を生じた方の中には厳重な管理が必要になる場合があります。
血管の炎症による血管壁の障害をさらに進行させないために、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症などの動脈硬化の危険因子を減らすよう生活習慣に気をつける必要があります。
また、治療によって免疫が抑制されている場合は感染症にかかりやすく、感染症を契機に血管炎の病状が悪化することもあるため、手洗いや風邪の流行期に人込みに行くときにはマスクをするなどの注意が必要です。規則正しい生活をして、精神的にも肉体的にもストレスを最小限にする生活を心がけることが重要です。
約7割の方に 再燃 がみられるとされています。また、若い女性の方に多い病気であり、妊娠、出産を契機に高安動脈炎が再燃することもあり慎重な経過観察が必要です。
<リファレンス>
血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改定版) 日本循環器病学会ほか研究班
血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改定版)ダイジェスト版 日本循環器病学会
血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改定版 日本皮膚科学会
高安動脈炎(Takayasu arthritis) 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト