結節性硬化症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

結節性硬化症とは、皮膚、神経系、腎、肺、骨などいろいろなところに過誤腫と呼ばれる良性の腫瘍や過誤組織と呼ばれる先天性の病変ができる病気です。結節性硬化症の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

結節性硬化症とは

結節性硬化症は皮膚、神経系、腎、肺、骨などいろいろなところに過誤腫と呼ばれる良性の腫瘍や過誤組織と呼ばれる先天性の病変ができる病気です。

以前は皮膚と神経系の症状が主であると考えられ、皮膚にあざの様な症状(母斑)が出ることから、 神経皮膚症候群 あるいは母斑症というグループに分類されていました。古くは頬の赤みを帯びた数ミリのニキビ様の腫瘍(顔面血管線維腫)、てんかん、知的障害の3つの症状がそろうとこの病気と診断してきました。しかし診断技術の進歩に伴い、知的障害や、てんかん発作のない軽症の患者さんもいることがわかり、それに伴い、全身の様々な症状で診断されることも多くなっています。

この病気は、年齢によって問題になりやすい症状は異なります。新生児期には心臓の腫瘍( 横紋筋腫 )、乳児期にはてんかん発作や知的障害、学童期からは顔面血管線維腫が問題になることが多く、脳腫瘍(上衣下巨細胞 性星細胞腫)や腎臓腫瘍( 血管筋脂肪腫 )ができて病院を受診する場合もあります。さらに女性の場合はしばしば成人期(20〜40歳)に肺のリンパ脈管平滑筋腫症と呼ばれる病変が問題になってきます。

結節性硬化症の原因

結節性硬化症をおこす原因遺伝子は2つあります。遺伝子は染色体の上にありますが、父親由来と母親由来の染色体は対になり、人間では大きさの違う23対の染色体からなっています。

結節性硬化症をおこす遺伝子は、染色体16番の原因遺伝子(TSC2遺伝子)と染色体9番の原因遺伝子(TSC1遺伝子)です。TSC1遺伝子とTSC2遺伝子がつくり出す蛋白質はそれぞれハマルチン、チュベリンといい、ふたつが共同で腫瘍ができるのを抑えていますが、この病気の患者さんではこのどちらかの遺伝子に異常があると考えられます。

この2つの蛋白が共同でmTOR(マンマリアンターゲットオブラパマイシン)と呼ばれる物質を抑制しています。このmTORの働きが強くなり過ぎると、腫瘍ができやすくなったり、てんかんを起こしたり、自閉症などの発達障害になると考えられています。

*遺伝について

結節性硬化症は遺伝子の異常であるため、 常染色体優性遺伝と呼ばれる遺伝形式を示し、遺伝する疾患です。しかし、実際には、60%以上の患者さんではご両親をいろいろ検査しても結節性硬化症にみられる症状が全く見つかりません。この場合は、ご両親から遺伝したのではなく、ご両親の精子または卵子の遺伝子に突然変異 がおこり、発病したと考えられます。このように突然変異でおこった症例(孤発例と言います)ではご両親には全く症状はなく、次に生まれてくる子供が結節性硬化症になる確率は正常人の出産とほぼ同じです。

しかし、ご両親のいずれかが結節性硬化症の場合は、生まれてくる子どもが結節性硬化症になる危険率は男の子であろうと女の子であろうとおおよそ50%になります。 また、孤発例の患者さんでも、患者さんが結婚して次の世代をつくるときには遺伝の法則に従い、子供の半分が結節性硬化症になる可能性があります。

疫学的整理

日本や外国でのこれまでの調査では、結節性硬化症と診断された患者さんは人口1万〜数万人に1人の割合です。人種や民族による差はないと考えらていますが、日本人全体で1万人くらいはおり、症状が軽いので病院を訪れていない、あるいは訪れても診断されていない方まで含めると、人口6千人に1人くらいいるのではないかと推定されています。

結節性硬化症の症状および診断

結節性硬化症は全身の疾患で、様々な症状がみられます。年齢によって問題になる症状が異なり、また、患者さんによっても症状の程度が全く異なります。

小児期に小児科で診断される患者さんが一番多く、他には皮膚科、精神科、神経内科、泌尿器科などで診断されます。小児科で診断される場合は、てんかん発作や知的発達の遅れをともなっていることがよくあり、重症心身障害児施設や知的障害児の施設に入所・通園する小児の中にも結節性硬化症の患者さんが比較的多くいます。

一方皮膚科や泌尿器科、呼吸器内科ではじめて診断される方には、てんかん発作や知的障害のない人もたくさんおられます。また最近では妊娠中の超音波検査により、胎児に心臓腫瘍がみつかって診断されるケースが増加しています。 

(1)主な症状

I.中枢神経症状

てんかんは80%近くの患者さんにおこり、治療の必要な症状です。乳児早期には頭をカクンとたれるタイプのてんかん(点頭てんかん)、それ以降には意識がなくなり、手足の一部がけいれんするタイプのてんかん(複雑部分発作)の頻度が多くみられます。

乳児期にてんかんで発病し、治療しても治りにくい場合は、知的障害が重度になる可能性が高くなります。軽症例が見つかるようになって、最近はてんかんのない患者さんも増えてきています。
多くの患者さんの脳の表面には、普通の脳の固さとは違う部分があります。皮質結節と呼ばれ、この病変が、結節性硬化症の病名の由来になっています。脳の一部の細胞が、正しく発生しなかったためにできるもので、てんかんの原因になっている場合もあります。

II.心病変

新生児で心筋肥大や不整脈、心不全など心臓の異常をおこすことがあります。これは心臓に横紋筋腫ができているためで、心エコーで検査をすると小児の結節性硬化症患者の60%以上に認められるとの報告があります。これは年齢が大きくなると少しずつ小さくなり、自然に消えますので、心臓の血液の流れを邪魔し、心不全をおこさない限り、手術は必要ありません。

III.皮膚病変

様々な特徴的な皮膚病変があり診断の手がかりとなります。

①白斑

生まれた直後から、ほとんどのひとに皮膚に白いあざ(白斑)があります。赤ちゃんの時は色が白く、目立ちませんが、日焼けをするとこの部分が日焼けせず、目立つようになります。木の葉状の形をしているのが特徴ですが様々な形をしていることがあります。また髪の毛のところに 白斑ができると褐色の髪や白髪になる場合もあります。

②血管線維腫

早ければ2歳ころから、顔面特に頬部に赤い糸くず様のしみが出現することがあります。幼稚園や小学校に上がる頃から、頬や下あごに赤みをおびた数ミリの盛り上がったものがみられるようになります。赤みがあまり目立たない正常皮膚色のもの、もう少し大きく扁平なものや、少し黒みを帯びた球形のものができることもあります。3−4歳ころには血管線維腫らしい形が完成します。これらは少しずつ数が増えていきますが、老年期になると目立たなくなります。

③爪線維腫

20歳ごろから、手や足の爪の下や上、周りに固い腫瘍がでてくることがあります。手より足の爪に高頻度に認められ、徐々に増加増大してきます。初期は爪の線状の陥凹として認められることもあり、数年そのような状態が続くこともあります。思春期頃から腰部にでこぼことした皮膚の盛り上がりがでてきて徐々に増大してくることがあります。早いひとでは幼児期から皮膚にいぼのような固い小さなできものとして出現してくることもあります。腰によくできますが、必ずしも腰とはかぎらず、体幹(胴体)を中心にどこにでもできます。ときにバレーボール大の盛り上がったかたまりになることもあります。

④粒起革様皮,シャグリンパッチ(Shagreen Patches)

 5 歳以下の患者の 25%に,5 歳以上の患者では 50% の頻度で認められます。通常は思春期以降に出現します。背部,特に腰仙部,あるいは腹部にドーム型の小腫瘍が多発することがあります。

IV.腎病変

腎臓では、嚢腫(液体の入った空洞)や、血管や筋肉や脂肪成分の多い腫瘍(血管筋脂肪腫)がみられることがあります。嚢腫は比較的若い時から認められることもありますが、血管筋脂肪腫は小学生頃に出現し、特に若い人では急速に大きくなる場合があるので注意が必要です。

嚢腫は大きくなると、腎機能障害や高血圧の原因になることがあります。腎血管筋脂肪腫では時にこれが出血をおこし、その場合は激痛を伴います。出血が大量の場合は出血性のショックを起こす場合があります。いずれも成人以上の結節性硬化症の方では、小さなものも含めれば、高頻度に認められます。定期的に腎臓の超音波などの検査をしてもらう方が良いでしょう。

V.肺病変

肺にはリンパ脈管筋腫症(lam)がみられることがあります。20歳~40歳の女性に多く、1-6%に出現し息切れや血痰で発病し、治らずに悪化する病気と言われていました。比較的初期にくり返す気胸として発症することがありますが、初期にはほとんど症状がありません。

治療が必要になるのは20%ほどという報告もありますが、進行すれば呼吸不全をおこし死に至ることもあります。その他の肺病変としては多発性小結節性肺細胞過形成が見られることもあります。

VI.眼病変

約50%に網膜や視神経の過誤腫が認められます。大部分は石灰化していきますが、まれに増大し,網膜剝離や硝子体出血の原因になります。視力障害を生じることもありますが、通常は無症状です。

VII.骨病変

骨病変はしばしばみられますが、通常は症状はありません。頭蓋骨、脊椎、骨盤にはしばしば骨硬化像が認められ腫瘍の転移と鑑別を必要とすることもあります。手や足、特に中手骨や中足骨では、周囲 に骨の新生を伴った嚢腫様の病変が認められます。顎骨の骨囊腫がみられることがあります。早期に確認するために、 6~7 歳頃までには一度は顎骨のパノラマ撮影が必要です。通常は経過観察のみで治療は必要としないことが多いです

(2)比較的まれな症状

幼児期から10歳前後に、脳に上衣下巨細胞性星細腫という腫瘍ができることがあります。比較的ゆっくり大きくなり、ある大きさ以上にならない時もあります。良性の腫瘍ですが急速に大きくなったり、腫瘍が大きくなって、脳の中の水の流れを悪くしたり、腫瘍による圧迫症状がでたりすると、治療が必要になります。目の網膜に結節状の小さい腫瘍ができます。眼科で精密検査を受けるとかなりのひとにみられます。この腫瘍がごく一部のひとで大きくなり、失明する場合もあります。

その他、子宮筋腫や卵巣嚢腫などもよく認められます。甲状腺、骨、消化管、肝臓、血管など他の臓器にもさまざまな病変ができることがあります。

結節性硬化症の診断基準

A .遺伝子検査での診断基準

TSC1,TSC2 遺伝子のいずれかに機能喪失変異があれば,TSC の確定診断に充分である.ただし,明らかに機能喪失が確定でき る変異でなければ,この限りではない.また,遺伝子検査で原因遺伝子が見つからなくとも,結節性硬化症でないとは診断できない.

B.臨床診断の診断基準

大症状

  1. 3 個以上の低色素斑(直径が 5mm 以上)
  2. 顔面の 3 個以上の血管線維腫または前額部,頭部の結合織よりなる局面
  3. 2 個以上の爪囲線維腫
  4. シャグリンパッチ
  5. 多発性の網膜の過誤腫
  6. 大脳皮質の異型性
  7. 脳室上衣下結節
  8. 脳室上衣下巨大細胞性星状細胞腫
  9.  心の横紋筋腫
  10. リンパ脈管筋腫症
  11. 血管筋脂肪腫(2 個以上)*1

小症状

  1. 散在性小白斑
  2. 3 個以上の歯エナメル質の多発性小腔
  3. 2 個以上の口腔内の線維腫
  4. 網膜無色素斑
  5. 多発性腎囊腫
  6. 腎以外の過誤腫

Definitive TSC:大症状 2 つ,または大症状 1 つと小症状 2 つ以上
Possible TSC:大症状 1 つ,または小症状 2 つ以上

結節性硬化症の治療

それぞれの症状に対する対症療法がほとんどです。てんかんがある人に対しては、てんかんの治療が必要になります。 結節性硬化症のてんかんとそれ以外のてんかんとで、特に治療にちがいはありません。難治性で、何種類かの薬を数カ月かけて試みることもあります。数年もかけて、いろいろ薬を試みても、てんかんが極めて治りにくく、脳の中の結節がてんかん発作の原因と確認された場合には、この部分を脳神経外科で切除することもあります。現在、mTORの抑制剤の1つ、エベロリムスという薬が結節性硬化症のてんかんの治療薬として国内で治験が行われています。

腎臓の血管筋脂肪腫は出血の危険が高いときには、ある程度の大きさまでなら、腫瘍を養っている血管を詰めて腫瘍に栄養が行かないようにして、腫瘍を縮める方法がとられることがあります。また2012年からエベロリムスが結節性硬化症の腎腫瘍(血管筋脂肪腫)に使用できる様になりました。エベロリムスは脳腫瘍(SEGA)に対しても使用が認められています。

肺のリンパ脈管筋腫症に対しては、ホルモン療法や、卵巣摘出あるいは、ひどくなれば、肺移植をする場合もあります。2014年からは新しい治療薬としてシロリムス(ラパマイシンの別名)も使用できることになりました。

顔の血管線維腫や爪の周りの腫瘍は、日常生活でじゃまになったり、美容的に気になる場合は、皮膚科で治療を受けることができます。凍結凝固療法、レーザアブレージョンなどが有効な治療として知られています。ラパマイシンの塗り薬を用いた顔面の血管線維腫の治療も可能になりました。

このように、最近の新しい治療法として、ラパマイシンやエベロリムスというmTORを抑制するおの使用が可能になりました。これらの薬は結節性硬化症の腫瘍を抑制する薬であり、脳腫瘍や、腎腫瘍に対しても有効ですが、治療の中止による再燃があるので、長期の使用が必要です。長期使用の副作用についても検討が進められています。

結節性硬化症の経過

約60%の方が知的障害をおこすといわれていますが、最近は軽症例が増加しています。てんかんの発病が早いほど、またてんかんのコントロールが難しい人ほど、知的障害が重症化する傾向があり、小児期に知的障害を軽くすることが一生にわたる重要な課題です。

命にかかわる症状は、小児期では新生児期の心臓横紋筋腫による心不全、知的障害やてんかんが関係する事故死、脳腫瘍などがあげられます。成人期では、腎臓の血管平滑筋脂肪腫の出血や、腎病変による腎機能障害が命にかかわることがあります。成人女性の患者さんでは、肺のリンパ脈管筋腫症が、生命に関わることがあります。

日常生活の注意

それぞれの症状、すなわちてんかん、知的障害や発達障害、脳腫瘍、腎腫瘍などに応じた注意が必要です。口腔内のケアも重要です。

リンパ脈管筋腫症の方は、ホルモンの治療や妊娠に伴う注意点があります。ピルなどの避妊薬にも注意が必要です。程度によっては気圧の変化を伴う飛行機などの乗り物は控えた方がよい場合もあります。

新しい治療の研究も進化していますが、それぞれの症状に注意して病気と付き合っていくことが必要になります。早期の診断も重要です。軽微な皮膚病変にも注意して専門医に相談しましょう。

終わりに

結節性硬化症は様々な症状で発症し、その特徴は年代でも異なり、複数の診療科で連携して診断治療に当たる必要があります。大学病院を中心に診療連携チームをつくっている医療機関がありますが、全国的には点在しています。

新たな治療薬も使用できるようになり、関心も高まっています。こういった診療連携は広がってくると思われます。患者さんも病気についての知識、正しい情報を得ていくことが大事です。

<リファレンス>

結節性硬化症 指定難病158 難病情報センター
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