勘違いしやすい更年期障害と甲状腺機能異常 【医師にインタビュー】

記事要約

『顔のほてりや発汗、イライラ、疲れがとれない』などの症状を聞くと、更年期障害を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。 更年期障害とよく似た症状のため、勘違いしやすい病気が甲状腺機能異常です。 更年期障害だから仕方ないと我慢している方の中で、実は甲状腺に問題がある場合があります。 今回は甲状腺疾患に詳しい、おうち病院の小田先生(甲状腺外科医)にお話をうかがいました。

女性に多い甲状腺の病気

ー先生の専門は甲状腺ですが、とても小さい臓器なんですね。どんな働きがあるのでしょうか?

甲状腺は頚部(けいぶ、首のあたり)にあるとても小さな臓器です。

小さいですが甲状腺ホルモンを分泌し、脳の命令でその量を調節していて、とても重要な働きをしています。その中でホルモン量が上がりすぎたり、下がりすぎたりといろいろな症状が出てきます。

甲状腺機能が強く働きすぎると甲状腺が腫れてきます。甲状腺は喉の上から触ることができる臓器なので腫れるとご自身で異変に気付いて受診する方もいます。

ただ軽度の変化では症状に気付かないことがほとんどですね。

ー私の周りでも甲状腺を患っている方がいます。身近な病気のように思いますが実際はどうですか?

甲状腺になんらかの異常がある方は意外に多いと思います。潜在的に甲状腺機能が低下している方が全国で3.3~6.1%、過剰になっている方が0.8〜2.3%と報告されています1)。女性に多く、年齢が上がるにつれて増加するといわれています。

この中で実際に症状が出る方はもう少し減少しますが、身近な病気と考えていいと思います。

ー甲状腺に異常があるとどんな症状が出るんでしょうか?

甲状腺機能が過剰になると、ほてりや汗をかきやすい、動悸がするといった症状が見られます。逆に機能が低下すると、全身のだるさ、寝ても寝足りないとか太りやすくなったといった症状が現れます。

これらは女性ホルモンの減少による更年期障害でもみられる症状です。

ー更年期でよく聞く「めまい」は甲状腺異常でも症状が出るのでしょうか?

めまいもありますね。

甲状腺機能が過剰になると動悸がして、そこからふらつきやめまいが出る方がいます。ですので、更年期障害と甲状腺の機能異常による症状は区別が難しいことがあります。

甲状腺機能異常の主な症状

甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症
  • 疲労感
  • 傾眠
  • むくみ、体重増加
  • 無気力
  • 月経異常
  • 動悸
  • 汗かき、暑がり
  • 疲れやすい
  • イライラ
  • 月経異常
  • 体重減少

更年期障害と甲状腺機能異常

ー甲状腺の症状は更年期障害ととても似ていますね。

甲状腺異常と更年期障害の症状はよく似ていますね。

ほてりや汗が多く、更年期障害だと思って婦人科を受診する方がいますが、婦人科で甲状腺ホルモンもチェックしてみると数値が高くて紹介されることがあります。

一方で、甲状腺の異常がないので更年期障害を疑って、こちらから婦人科に紹介することもありますね。体重減少などでは悪性腫瘍を疑って内科に紹介することもあります。

ー症状がそっくりなので、首が腫れるといった変化がないと自分ではわかりにくいですよね。

基本的には血液検査をしないと診断がつかない疾患ですね。自分で触って異常を確認するのは難しいと思います。

血液検査の他に、頚部エコーは甲状腺がんなどを見つけるのに有用です。

ー年に1回受けている健康診断では異常が分かるのでしょうか?

一般的な健診では甲状腺ホルモンの項目は入っていないので、検査を追加しないといけないことがほとんどですね。

ただ、心電図が手掛かりになることもあります。心電図で不整脈が見つかったことから甲状腺機能異常が診断されることがあります。

適切な診断、治療を受けるには

ー甲状腺の病気に早く気づくためにはどうしたらいいでしょうか?

まずは、甲状腺の病気は更年期障害や疲労などと共通した症状があるということを知っていただくことが大切です。

甲状腺機能は血液検査で比較的簡単に調べることができますので、疲れやすいなとか更年期障害かなと思ったときは甲状腺ホルモンも積極的に調べてもらうといいですね。

ー例えば婦人科でも甲状腺ホルモンは調べてもらえるのでしょうか?

婦人科でも調べられます。

更年期障害と診断する際は、他の疾患ではないことを確認するので女性ホルモンを測る時に甲状腺ホルモンも一緒に検査することが多いです。

血液検査の前に医師に確認するのがいいと思います。

また、かかりつけの先生に症状を伝えて、甲状腺をチェックしてもらうといいでしょう。

ー甲状腺専門医を直接受診しなくても見つけてもらえるのですね。

そうですね。

血液検査で甲状腺ホルモンの異常が見つかれば、甲状腺の治療を行える内分泌科などを紹介してもらうことになります。甲状腺ホルモンの治療は遠方まで通わなくてもかかりつけの先生に薬を出してもらえると思います。

ー治療を始めるとすぐに症状が改善するものですか?

お薬を飲み始めると1、2ヶ月で症状が良くなる方が多いですが、薬をやめてしまうと症状が再発してしまいます。症状が激しく出てしまうこともあるので、きちんと通院することが大切です。

ー長く付き合っていく病気なんですね。

そうですね。きちんと定期的にみてもらうことが重要です。

ですので、症状がお薬で安定しているときは通院しやすいかかりつけ医で処方を受けるようにするとか、治療を継続できるように医師とコミュニケーションを取っていただくのがよいと思います。

まとめ

今回は、更年期障害と勘違いされやすい甲状腺機能異常について小田先生にお話しをうかがいました。

更年期に比べ、まだまだ認知度が低い甲状腺疾患。しかし今回のインタビューで身近な病気であることを知っていただけたのではないでしょうか。

血液検査で簡単に甲状腺機能を調べることができるので、更年期だから仕方ないと考えず一度は検査を受けてみるのが良さそうです。

<リファレンス>

日本内分泌学会