潰瘍性大腸炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

潰瘍性大腸炎とは炎症性腸疾患(IBD)に分類され、持続的な炎症によって大腸の粘膜にびらんや潰瘍が形成される、慢性の再発性疾患である。潰瘍性大腸炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎とは炎症性腸疾患(IBD)に分類され、持続てきな炎症によって大腸の粘膜にびらんや潰瘍が形成される、慢性の再発性疾患である。炎症と潰瘍により、腹痛や体重減少を伴った下痢、血液、腸液などの排出が見られ、症状の再発と寛解を繰り返すのが典型的な症状である。重症度や症状出現の頻度には個人差があるが、日本国内では難病に指定されている。

原因

原因は不明だが、遺伝的要因や免疫的要因が関連していると考えられている。潰瘍性大腸炎と診断されている患者のうち20%は近親者が同疾患を患っており、いくつかの遺伝的要因を背景に、何らかの要因が免疫系異常を引き起こして発症するとされている。トリガー要因としては、細菌またはウイルスの可能性が高いが、その種類などの詳細は分かっていない。一方で、潰瘍性大腸炎の再燃の要因として、抗炎症薬や喫煙の中止や、細菌が原因となる胃腸炎があげられる。

相談の目安

下血や腹痛が持続する場合や倦怠感、発熱などが改善されないときには医療機関の受診がすすめられる。また診断後、治療中であっても同様に腹部症状が増悪している場合には治療方針の再検討が必要である。

疫学的整理

日本では2016年時点で166,060人が医療受給者証および登録者証交付を受けており、罹患率は人口10万人あたり100人ほどである。発症年齢は10歳から40歳で頻度が高いが、どの年齢でも発症の可能性はあり、約15%は60歳以上で発症している。また非喫煙者は喫煙者よりも潰瘍性大腸炎の発症率が高い。 潰瘍性大腸炎は、都心部や工業地域の住民に見られることが多く、精製食品の摂取と関連があるとされている。どの人種においても見られる疾患であるが、白人、東ヨーロッパのユダヤ人の子孫に多い傾向がある。


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図1. 潰瘍性大腸炎医療受給者証交付件数の推移

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図2. 潰瘍性大腸炎の推定発症年齢

症状

病変は直腸から連続的に、上行性に広がる性質があり、典型的な症状としては、頻回な下痢が見られる。また腸内の炎症のために水分が十分に吸収されず、水溶性下痢を引き起こす。潰瘍からの出血がある場合には粘血便や血性下痢となることもあり、腹痛を伴うことが多い。また、便意があっても排便できなや倦怠感、嘔気、食欲低下、体重減少、貧血などを伴なう。

そのほか、初発患者の10%に大腸外の合併症を認め、経過中に25%が腸管外症状を発症する。原発性硬化性胆管炎、強直性脊椎炎を併発する場合は腸管外の症状が主症状となる傾向にあるが、それ以外においてはもっとも頻度の高いものは関節炎である。また筋骨格系の疾患として骨粗鬆症や骨壊死も認められる。

眼症状としてはぶどう膜炎、上強膜炎の頻度が高く、眼の赤みや掻痒感を伴うことがある。皮膚疾患では結節性紅斑や壊疽性膿皮症が頻度の高い疾患である。腸管の出血や炎症により貧血は高頻度に見られるが、自己免疫性溶血性貧血は炎症性腸炎に付随して見られることがある。また炎症性腸疾患では、静脈および動脈血栓塞栓症の頻度が高まるとされ、炎症性腸疾患の再発ケースでは入院中の絶対リスクは37.5/1000人年対13.9/1000人年、外来患者では6.4/1000人年対0.4/1000人年である。


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図3. 臨床的重症度による分類 (潰瘍性大腸炎・クリーン病 診断基準・治療指針)

重症化しやすい場合

10%の症例において、大腸以外にも症状が認められる。例えば、大腸の炎症とともに悪化する可能性があるのものは、結節性紅斑、口腔内アフタ性潰瘍、強膜炎、急性関節炎、壊疽性膿皮症、前眼ぶどう膜炎など。そのほか、大腸の活動に関連しないものでは、仙腸骨炎、強直性脊椎炎、原発性硬化性胆管炎、骨粗鬆症などがあげられる。

また、10%の頻度で結腸がんを発症するリスクがあり、罹患期間が長く、頻繁に症状の再燃を繰り返している場合などではよりリスクが高い。そのため、潰瘍性大腸炎と診断されている場合には定期的な大腸検査が必要である。

再燃感染防止対策と治療薬

再燃防止のため、内服による治療を継続することが必要であり、連日の定期的な内服により、再燃は30%程度に低下させることができる。症状改善アミノサリチル酸が症状の治療に用いられるとともに、維持容量を継続することで炎症の再燃予防を行う。副作用は比較的少ないが、腹痛、嘔気、頭痛や発疹などの副作用が見られることもある。アミノサリチル酸の服用中に再燃が起きた場合には、服用量を増やすか、ステロイド投与を検討する。

また、副作用によって内服継続が困難な場合にもアザチオプリンや6-メルカプトプリンなどに変更することがある。内科的治療が奏功しない場合には、外科的治療により大腸全摘を要する。その際には一時的に人工肛門の設置を伴うことがある。

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図4. 潰瘍性大腸炎治療指針 (潰瘍性大腸炎・クリーン病 診断基準・治療指針)

診断の方法

診断には、A:臨床症状として持続性または反復性の粘血便や血性下痢があり、B:生体検査(1.内視鏡検査, 2.注腸X線検査)にて典型像を認める。さらにC:生検組織学的検査にて特異的所見の確認を経て行われる。繰り返す下血や血性下痢を認める症例に対して大腸内視鏡検査によって診断を進める。

内視鏡による粘膜の外観と、生検検査によって診断するのが標準診断である。大腸内視鏡での検査が困難な小腸病変に対しては、小腸カプセル内視鏡や、ダブルバルーン小腸内視鏡が用いられることもある。また全身状態の確認のために採血検査や、便検査を行うこともあるり、以下を満たす場合に確定診断となる。。診断確定には、

  1. A、Bの1または2、およびCを満たすもの
  2. Bの1または2、およびCを繰り返すもの
  3. 切除または剖検により肉眼的または組織学的に特徴的な所見を認めるもの

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図⒋ 診断の手順 (潰瘍性大腸炎・クリーン病 診断基準・治療指針)

図5. 臨床的重症度による分類 (潰瘍性大腸炎・クリーン病 診断基準・治療指針)

図65. 活動期内視鏡所見による分類診断基準 (潰瘍性大腸炎・クリーン病 診断基準・治療指針)

診断の難しさ

再燃、寛解を繰り返し根治が難しい疾患であり、治療目標は潰瘍性大腸炎の炎症による腹痛や下痢やをコントロールし、できるだけ日常生活への負担を軽減することである。そのため長期間の継続的な治療継続が必要である。しかしながら、治療経過中にも、巨大結腸症や大腸の穿孔などのリスクがあり、外科的治療を要する可能性がある。

さらに、症状を内服薬でコントロールない場合や、炎症、出血が重症なケースなどを含めると、罹患者の25%はいずれかのタイミングで外科的治療が必要になる。特別な食事は必要ないが、高繊維食事を避け、便秘を回避することが必要である。そのほか、頻回な出血により、貧血を併発する可能性があり、必要に応じ鉄分やビタミンB、葉酸などの摂取が必要である。免疫系の影響により症状を引き起こしている可能性がある場合には、肺炎球菌、HPV、肝炎などのワクチン接種を行うことも奨励されている。

しかしながら、免疫抑制剤を内服している場合の生ワクチンの接種は重篤化のリスクが高く禁忌とされているので注意が必要である。これらの治療や予防策を継続した上で、罹患者の約半数が平均年に1回程度潰瘍性大腸炎の症状を再発しているとされる。

<リファレンス>

“Clinical Manifestations, Diagnosis, and Prognosis of Ulcerative Colitis in Adults - UpToDate.” Accessed November 16, 2020. 

“Ulcerative Colitis > Condition at Yale Medicine.” Accessed November 12, 2020.

“Ulcerative Colitis | Symptoms, Diagnosis and Treatment | Patient.” Accessed November 13, 2020. 

“潰瘍性大腸炎(指定難病97) – 難病情報センター.” Accessed November 12, 2020.

“目 次 潰瘍性大腸炎,” n.d.

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