広く実施されている「尿検査」で異常を指摘されたら?【医師にインタビュー】
記事要約
広く実施されている「尿検査」で異常を指摘されたら?尿検査で分かる病気や注意点、どんなことに気を付けて日常生活を送るといいかなどを解説。
広く実施されている「尿検査」で異常を指摘されたら?
みなさんも、きっと1度は経験したことがある『尿検査』。そんな身近でありながら、どんなことが分かる検査なのかはよく知らないと耳にします。今回は、奥深い『尿検査でわかること』について腎臓内科医師にお伺いしました。
尿検査って何を調べているの?
小中学校の時、折り畳み式プラカップとスポイトが配られて、翌朝の尿を持参する学校検尿。みなさんも経験があるのではないでしょうか?
実は学校検尿は世界共通ではなく、ここまで手厚く実施している国は少ないのです。日本は1974年に世界で初めて学校検尿を開始しました。その後、アジアの国で学校検尿を導入している国がありますが、欧米では希です。
尿検査は、被検者さんが比較的負担なくできる検査であり、安価で短時間に多くの方の検査ができるため、日本では広く取り入れられています。
一般的な人間ドックで検査している項目は大きく分けて「たんぱく」・「血液」・「糖」の3つです。この3つが尿に出ていないかを調べ、潜む病気を早期に見つけるという仕組みです。反応があると、再検査でさらに詳細の検査をします。
私はよく患者様にこんなお話をしています。
尿というのは、腎臓という工場で作られている製品のようなもの。余分な水分や塩分や、老廃物が排出されるためのものです。その尿の中に、身体を形成するのに必要な、たんぱく質や血液や、糖が出てきてしまったら、工場である腎臓に何か異常があるのではないかというサインになります。
たんぱく尿と血尿が出ていたら、腎疾患を疑いますし、血尿のみでしたら、尿管結石や膀胱がんなどの疑いがないかと診断します。糖が出ていれば、その名の通り、糖尿病の可能性を考えます。
それらの病気を持っている可能性のある人たちを短期間に広く拾うことが、尿検査の目的です。素早く広く拾うことが特徴なので、「尿検査でひっかかってしまった」=「病気」とは言い切れません。このように実際には病気ではないにもかかわらず、検査で異常を示すことを「偽陽性」と言います。
特に人間ドックなどの場合、健診前夜は早い時間に食事を終え、その後絶食をすることから、尿が濃くなりやすく、その分、検査でたんぱく尿なども出やすい条件になるため、本当は特に異常のない方でも、時に検診ではひっかかってしまう、という方も出てきます。
毎年尿検査でひっかかっても、再検査で何も異常がでないから・・という理由で再検査に行かない方もいらっしゃいますが、そのときの検査が「偽陽性」であるのか、本当に昨年まではなかった新たな病気の徴候が見られるのか、というのは実際に再検査や詳しい検査を受けてみないとわからないので、尿検査で反応が出た方は、必ず再検査に行くようにしましょう。
尿検査でわかる病気ってどんなもの? 何科を受診すればいいでしょう?
短時間で私たちの身体の異常を見つけてくれる尿検査ですが、どのような病気がわかるのでしょうか?前述したように、たんぱく尿や血尿が出ているかを診て、腎臓・膀胱・尿道・尿管等に病気が潜んでいないかを調べることができます。
腎臓の機能が悪くなると、脳梗塞や心筋梗塞といった動脈性硬化疾患に掛かりやすくなるため、腎臓の病気がないかどうかを調べることはとても重要です。
がんは見つけられますか?と訊かれることもありますが、尿の通り道にあるがん(膀胱がんや腎がん等)は、見つけられる可能性もあります。特に、蛋白尿を伴わない血尿単独の場合にはこれらのがんの可能性を考えます。
学校検尿や人間ドッグでの尿検査は、多くの方がかかりやすい病気を広く見つけ、早期発見、早期治療を行うためのものなので、健康チェックという位置づけにとして、定期的に受けてほしいと思います。
また、再検査の際、何科を受診したらいいですか?という声も多く訊かれます。基本的には大病院等ではなく、かかりつけの内科をまず受診していただくとよいでしょう。
血尿だけが出ている場合、泌尿器科受診も考えられますが、一般的に泌尿器科は内科に比べて医師や医院の数が少なく、お近くにクリニックがない場合も多いと思います。まずはかかりつけの内科を受診して頂き、必要に応じて泌尿器科や、より詳細な検査を行える腎臓専門医に紹介していただく、と言う形で十分かと思います。
尿検査の注意点とは
大事な尿検査。受ける前にはどんなことに注意をしたら良いでしょうか?
気軽な検査ですし、それほど神経質になる必要はありませんが、気を付けていただきたい点は幾つかあります。
前日に激しい運動をすることは避けたほうがいいといわれています。筋肉が壊れて血尿の偽陽性反応が出ることがあるからです。
逆に、ビタミンCを多く摂ると、検診の検査では血尿や尿糖の反応が出にくくなる可能性があります。(この場合は本当は病気の徴候があるのに、検査では陰性に出てしまう、偽陰性を起こしやすくなります。)
通常の飲み物や食事程度では問題は無いと言われていますが、サプリメントなどで大量に摂取している場合は、検査前2,3日はお休みしていただいた方が良いようです。
そして、女性は尿が外部に触れるので皮膚等が混じり、たんぱく尿が出る場合があります。それを回避するため、清潔にして採取するようにしてください。また、生理の前後数日間は、血液が混じってしまう可能性があるので避けましょう。
生理からどの程度日数をあけた方が良いか、というのは明確な決まりはないのですが、検診施設や病院などでそれぞれ基準を設けている所もあるようなので、もし検診の日と生理の日が近くなりそうな場合は、検診を受診される施設へ問い合わせをしていただくことをお勧めします。
日常生活で気を付けておくべきこと
動脈性硬化疾患等、多くの病気を引き起こすことを回避するため尽力する腎臓。その腎臓を守るために、日頃から気を付けることはあるのでしょうか?
腎疾患は、男性に多いといわれていますが、決して女性でも希な病気というわけではありません。現在、日本において透析を必要とする末期腎不全に至ってしまう原因の1位は糖尿病です。また、高血圧が原因となる腎硬化症も年々増えてきています。
生活習慣の乱れから糖尿病や高血圧などを引き起こし、腎疾患に罹るケースが多く見受けられます。
一方、膠原病でも腎機能の低下を起こすものがありますが、一般的に膠原病はその多くが女性に起こりやすいものが多く、これらの病気で治療中の方は尿検査や腎臓の機能の検査を定期的に受けていただくことが重要です。
このように見ていきますと、現代の日本では、ストレスや生活習慣病をいかにコントロールするかが、腎臓を守るために重要であると考えられます。どんな病気でも言われることですが、食生活や運動習慣など、日々の生活のちょっとした心がけが、腎臓を守ることにつながります。
そして腎不全の一番の進行原因は、高血圧だと言われています。高血圧の要因は塩分過多という点から考えても、食習慣において塩分やコレステロールの採り過ぎには注意が必要だといえるでしょう。近年、健康志向からか、日本人の塩分摂取量は徐々に減ってきていますが、2018年時点で平均、男性11.0g/日、女性9.2g/日と、それでも厚生労働省が定める男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満にはまだまだ届いていません。
腎不全は、ある日突然起こるわけではなく、ゆっくりと悪くなっていくものです。腎臓機能の30%を切るまでは自覚症状がないため、突然悪くなったという印象を持ちますが、実は気づかないうちに少しずつ悪化していきます。そのため、定期的に検査を受けることで早期治療が可能になるといえます。
前触れ症状がないということをよく頭に入れ、定期的な検診を心掛けください。
特に女性は、閉経後から肥満や、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症が増えるといわれています。それは、それまで強い力で守っていた女性ホルモンが減ってくるからと考えられます。
先にお話ししたとおり、これらの生活習慣病が腎機能の低下や、さらには心筋梗塞などの病気にもつながっていきますので、ぜひご注意いただきたいと思います。
主婦の方や自営業の方は、どうしても健診の機会が少なくなってしまい、病気のサインを見逃してしまいがちです。そのため、自覚症状のないまま病気が進行してしまうというケースもあるのです。
今回はあまり詳しくお話ししませんでしたが、現在でも透析導入の原因疾患の第二位は慢性糸球体腎炎と呼ばれる腎臓の病気です。これらの病気の中には比較的若い方がかかりやすいものもありますし、近年は若い方にも糖尿病が増えてきています。「まだ若いから大丈夫」と思わずに、ご自分の生活習慣に少し見直しつつ、年に1回は検診を受けていただき、様々な病気の早期発見、早期治療を心がけていただきたいと思います。
ご家族で話し合い健診月間を設定したり、3月11日の世界腎臓デーなどを活用して、健診の日としてみてもいいかもしれません。