VATER症候群(VATER連合)|疾患情報【おうち病院】
記事要約
VATER症候群(VATER連合)は、胎生期の中胚葉系分化異常による先天異常とされています。VATER症候群(VATER連合)の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
VATER症候群(VATER連合)とは
VATER症候群(VATER連合)は胎生期の中胚葉系分化異常による先天異常とされています。本症の原因や発症機序はまだわかっていませんが、多系統にわたる異常を認めることから発生の比較的早い段階で分化の異常が起こっているものと推測されています。また、糖尿病を有する女性は一般集団よりも高頻度に本症罹患児の出生を認めることが知られています。
本症は、椎体異常 (Vertebral abnormalities)、肛門異常 (Anal atresia) 、気管・食道瘻(Tracheal-Esophageal abnormalities, including atresia, stenosis and fistula) 、腎異常、橈骨異常 (Renal and Radial abnormalities) の5徴候の頭文字より命名されています。この5徴に加え、先天性心異常 (Cardiac defects)、四肢の異常 (Limb abnormalities) を合併することもあり、この場合はVACTERL連合と称します。
本症に対して効果的であったり、根治に繋がる治療法はまだ確立されていません。生命予後は合併する異常の組み合わせや重症度、積極的治療が可能であるか否かにより異なります。特に先天性心疾患、呼吸器障害、消化器の先天異常は乳幼児期早期の予後に影響を与える因子であるため、出生後速やかにこれらの評価と治療を進める必要があります。
VATER症候群(VATER連合)の原因
本症の原因、発症機序はわかっていません。しかし多系統にわたる異常を認めることから発生の比較的早い段階で分化の異常が起こっているものと推測されています。また稀に遺伝子の重複や欠損といった遺伝子変化に関連して発症すること、糖尿病を有する女性では一般集団よりも高頻度に本症罹患児の出生を認めることが知られています。本症の多くは孤発例であることから遺伝性疾患ではないと考えられ、家系内で複数発症することは稀です。以上のことから、複数の外的因子や遺伝子異常による多因子を原因とする疾患であると考えられます。
VATER症候群(VATER連合)の疫学的整理
本症は出生10,000〜40,000人に1人程度と推定されていますが、正確な発生率は不明です。これは研究報告によって異なる診断基準が用いられていることや、症状が軽い患者は過小診断されることがあるためです。また人種や地理的分布による発生率の差は報告されていません。
2010年の研究班調査によると、日本国内の患者数は少なくとも147人、最大500人程度と推定されています。
VATER症候群(VATER連合)の症状
本症では下記に示すような多彩な症状を複数合併しますが、必ずしも全てを認めるわけではありません。またそれぞれの症状の重症度は患者によって様々であるとされています。
1.脊椎の異常 (Vertebral abnormalities)
本症の約70%に認められ、脊椎の低形成や椎体異常(半椎、蝶椎、椎体癒合など)、尾骨の欠損などを呈し、側弯症のリスクがあります。これらは早期には症状はなく、また外観上も異常を認めにくいためレントゲンなどの検査によって発見されることが多いとされます。
また、肋骨の欠損や癒合などの胸郭の異常を認め呼吸状態に影響を与えることもあります。
2.肛門の異常 (Anal atresia)
55%に鎖肛※1を認めるとの報告があります。鎖肛は、出生後すぐに肛門が確認できないことから発見されることが多く、手術治療が行われます。
※1 鎖肛とは、肛門がうまく作られなかった先天性の異常で、消化器の先天異常では最も頻度が高いものになります。鎖肛の状態によって治療法が異なり、新生児期に根治手術を行える病型からいったん人工肛門を造設し、成長を待って根治手術を行う病型まで様々です。予後は良好なことが多いとされますが、便秘や便失禁などの排便障害が見られることもあります。
3.先天性心疾患 (Cardiac defects)
心室中隔欠損 (VSD)、心房中隔欠損 (ASD)、ファロー四徴症などを認め、特にVSDが多く見られます。重症度は欠損の程度により経過観察でよいものから手術が必要なものまで様々です。
4.食道、気管の異常 (Tracheal-Esophageal abnormalities, including atresia, stenosis and fistula)
約70%に食道閉鎖、気管・食道瘻※2を認めます。呼吸・摂食・嚥下障害を引き起こし呼吸器感染症や成長障害の原因になるため積極的な治療が必要になります。
※2 食道閉鎖症は食道が途切れた状態の先天性疾患で、胎児期に食道と気管が分離する際に何らかの異常によって発生します。そのため気管にも異常を認めることが多く、食道と気管が繋がった気管・食道瘻を合併することもあります。治療の目標は気管・食道瘻を閉じ、途切れた上下の食道を縫合する根治手術となります。病型によっては複数回の手術を要したり、合併する他の異常に起因する全身状態の悪化によっては手術そのものが困難な場合もあります。また手術後の合併症も多く、縫合部の離開や縫合部の狭窄、気管・食道瘻の再発などにより治療が長期化することがあります。
5.腎臓の異常 (Renal abnormalities)
腎臓の低形成や膀胱尿管逆流、腎臓異形成などを認め尿路感染症や腎不全の原因になることがあります。
また、胎児期に単一臍帯動脈※3であるケースが本症の35%程度まで認められることも重要な所見となります。
※3 臍帯動脈は通常2本あり、胎児期に胎児から胎盤へ血液を送る動脈のことを言います。胎盤で母体の血液と酸素などの成分交換を終えた血液は臍帯静脈を通じ胎児に運ばれます。単一臍帯動脈は2本の動脈のうち1本がもともと無形成(無形成型)あるいは二次的に閉塞し退縮する場合(閉塞型) があります。無形成型は先天異常と関連する場合があるとされているため、単一臍帯動脈の存在はVATER症候群を含む先天異常の早期発見の糸口になることがあります。
6.橈骨の異常 (Radial abnormalities)、四肢の異常 (Limb abnormalities)
本症の主要な症状として橈骨の異常が挙げられます。上肢の親指側(橈側)の欠損や低形成、親指の欠損、低形成、重複(多指症) などを認めることがあります。
その他に、前腕骨の癒合(橈尺骨癒合症)、内反足や脛骨形成不全といった下肢の異常を認めることもあります。
四肢の異常と腎臓の異常に関して、両側性の四肢異常を持つ患者は両側性腎異常、片側性の四肢異常を持つ患者では同側の腎異常を認めることが多いという報告があります。
7.その他
低出生体重で出生し、その後も体重増加不良を認める患者が多いとされています。
精神発達に関しては、大多数の患者では影響を受けることはなく、発達や知能の異常は認めないとされています。
VATER症候群(VATER連合)の診断
VATER症候群、VACTERL連合は明確に確立された診断基準や臨床検査がないため、同様の症状を呈する他の先天性疾患を除外した上で初めて診断されることになります(除外診断) 。
一般的には、上記に示した主要な症状(脊椎の異常 (Vertebral abnormalities)、肛門の異常 (Anal atresia)、食道、気管の異常 (Tracheal-Esophageal abnormalities, including atresia, stenosis and fistula)、橈骨及び 腎臓の異常 (Radial and Renal abnormalities))の5徴候のうち3つ以上を認める場合をVATER症候群、これに先天性心疾患 (Cardiac defects)、四肢の異常 (Limb abnormalities)を呈することがあり、その場合をVACTERL連合と診断しています。
脊椎の異常や四肢の異常に対してはX線検査、心疾患、腎疾患に対しては超音波検査を用いて異常の同定がなされます。遺伝子検査は他の遺伝子疾患を除外する目的で有用と考えられています。
本症のいくつかの症状は出生前に超音波で特定できることがあります。また出生前超音波で単一臍帯動脈を認める場合、先天異常を伴う可能性があることが知られています。そのため単一臍帯動脈の存在は追加の胎児評価を促し、VATER症候群を含む先天異常の早期発見に繋がることがあります。
鑑別が必要な疾患として、水頭症を伴うVACTERL連合※4、ファンコニ貧血、CHARGE症候群、Holt-Oram症候群、Towns-Brocks症候群、18トリソミーなどがあります。
※4 水頭症を伴うVACTERL連合は、稀な遺伝性疾患で常染色体劣性またはX連鎖性遺伝が示唆されています。VACTERL連合に比べ、水頭症や中枢神経系の異常を伴うため精神・運動発達の遅延や予後不良例が多いとされます。
<診断基準> 難病情報センターHPより引用
VATERの5徴(V=椎体異常、A=肛門奇形・鎖肛・肛門狭窄、TE=気管食道瘻・食道閉鎖、R=橈骨奇形・橈骨欠損、母指低形成、重複母指及び腎奇形・腎無形成・腎低形成)のうち、主要な症状を3徴以上呈し、染色体異常症や他の疾患(ファンコニ貧血等)を除外したものをVATER症候群とする。
5徴はそれぞれ以下のように診断する。
①V=椎体異常
単純レントゲン撮像で椎体・形態異常の所見がある。
特に椎体の所見(椎体癒合不全(半椎体・蝶形椎等))が見られることが多い。
②A=肛門奇形
鎖肛 視診にて確認。
肛門狭窄 排便障害あり、単純レントゲン撮像で腸管拡張像あり。
③TE=気管食道瘻・食道閉鎖
食道造影にて盲端や気管支像を確認。
④R=橈骨奇形
橈骨欠損を単純レントゲン撮像で確認、もしくは母指低形成・重複母指を認める。
⑤R=腎奇形
腎無形成・腎低形成を腹部超音波検査にて確認。
染色体検査により染色体異常症・ファンコニ貧血を除外した上でVATER症候群と診断する。
VATER症候群(VATER連合)の治療
本症に対する根治的治療法は確立されていません。したがって、合併している各症状に対して治療を行なっていくことになります。構造異常(鎖肛、VSD、ASD、気管・食道瘻、食道閉鎖、橈骨の異常など)の多くは手術的治療が可能ですが複数回の手術を要することもあります。早期に根治手術が行えない場合には姑息的にできる治療を行いながら、全身状態の改善や体の成長を待つこともあります。例えば、早期に食道や気管の異常を改善できない場合は、経口摂取が不可能なため胃瘻を造設し経管栄養を行うといったことがあります。
早期の生命予後を決める症状としては、先天性心疾患、呼吸器障害、消化器異常が挙げられ、早期の評価と治療の介入が重要となります。また腎機能の評価をしっかり行い、腎不全への進行を防ぐことは長期的予後の改善に必要です。
四肢の異常は生命予後に影響をすることはほとんどありませんが、生活の質に大きく影響を与えるため、適切な時期に機能改善を目的とした手術治療が必要になることがあります。母指の欠損では存在している指を用いて行う母指化手術、橈骨の低形成による内反手では内側に強く曲がっている手首を矯正し再建する手術などがあります。症状の程度により術式や治療経過は大きく異なります。
本症は患者ごとに合併する症状、その程度が異なります。また症状は多岐にわたるため各診療科専門医によるチームとしての治療が重要で、対応できる医療機関を選択する必要があります。
VATER症候群(VATER連合)の予後
本症では多岐にわたる先天性の異常を呈し、通常それらは生命を脅かすものではないことが多いとされています。しかし先天性心疾患、呼吸器障害、消化器異常は重症度によっては早期の生命予後に影響を与える可能性があるとされ、出生時すぐ(症例によっては胎児期)の病状評価、治療介入が大切です。
また本症では、発見された一つの先天性の異常が潜在している他の異常を早期に見つける契機になることがあります。そのため本症をよく認知している医療スタッフのもとで検査や治療を受けることは非常に有益であると考えます。
本症は、根治的治療法が確立されていないため生涯にわたり各症状に対する継続的な治療、リハビリテーションが必要となります。
2021年10月には、Dyrk2という遺伝子を欠損させたマウスがVATER症候群と類似した病態を示すということが発見され、発表されています。この研究は、本症の発症メカニズムの解明と有効な治療法の発見につながる可能性があると期待されています。
<リファレンス>
難病情報センター VATER症候群(指定難病173) 解説
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難病情報センター 奇形症候群分野VATER症候群
National Organization for Rare Disorders VACTERL Association
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