ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症|疾患情報【おうち病院】
記事要約
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症とは、血液中のリンの値が低いために、骨に石灰化が起こらず、強度が不足する病気です。ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症とは
血液中のリンの値が低いため骨の石灰化※が障害されます。正常な骨が形成できないことにより骨・関節の変形、疼痛などを引き起こす疾患です(別名、低リン血症性くる病/骨軟化症)。
発病が成長軟骨帯(いわゆる成長線)が閉鎖する前の場合を”くる病”、閉鎖後(成人期)の場合を”骨軟化症”と区別して呼んでいます。
ほとんどは1〜2歳以内にくる病として発症しますが、軽症の場合は成人になってから見つかることもあります。
※補足:骨の石灰化とは、正常な骨代謝の一つの行程です。カルシウム、リン、ハイドロキシアパタイト結晶がコラーゲン繊維に沈着することで起こります。これが正常に行われないと骨の質が低下し様々な問題が生じます。
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の原因
繊維芽細胞増殖因子23(FGF23)が過剰に産生が原因であることがわかっています。FGF23は腎臓でのリンの再吸収を抑制する働きがあるため、これの増殖により尿中のリン排泄量が増加し、結果として血液中のリン値が低下します。
FGF23の過剰産生の原因として、(1)複数の遺伝子異常によるもの(先天性)と(2)腫瘍によって産生されるもの(後天性)があります。
遺伝形式としては、X染色体連鎖性、常染色体優性、常染色体劣性などがあり、最も多いのがX染色体連鎖性とされています。
それぞれの責任遺伝子は以下の通りです。
- X染色体連鎖性(XLH): PHEX
- 常染色体優性(ADHR): FGF23
- 常染色体劣性(ARHR): DMP1,ENPP1
- 高カルシウム尿症を伴う遺伝性(HHRH): SLC34A3
疫学
ある報告によるとX染色体連鎖性のもので約2万人に1人の発生頻度と推定されています(日本国内)。全体では国内で年間約100名程度の新規患者が発生しています。
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の症状
- O脚、X脚といった外観から分かる骨変形(多くは2歳ごろまでに変形が出現)
- レントゲン所見:骨幹端の杯状陥凹、骨端線の拡大、毛ばだち
- 頭蓋癆(ろう)(頭蓋骨が薄いことで頭を押すとピンポン球のようにぽこぽこ凹む状態)
- 大泉門の閉鎖遅延
- 肋骨念珠(前胸部の中央から1/3のところに縦方向に並ぶ数珠状の肋骨の腫れ)
- 脊柱の弯曲
- 低身長(成長障害)
- 歯科病変(歯肉膿瘍、重度の虫歯など)
骨軟化症では骨痛、関節痛、筋力低下などを認め、適切な治療が行われないと寝たきり状態になってしまうこともあります。
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の診断方法
厚生労働省ホルモン受容機構異常に関する研究班、日本内分泌学会、日本骨代謝学会の合同で作成した診断基準があります。
【くる病】
大項目
a)単純X線像でのくる病変化(骨幹端の杯状陥凹、又は骨端線の拡大や毛ばだち)
b)高アルカリホスファターゼ血症*
小項目
c)低リン血症*
d)臨床症状
O脚・X脚などの骨変形、脊柱の弯曲、頭蓋癆、大泉門の開離、肋骨念珠、関節腫脹
のいずれか
*年齢に応じた基準値を用いて判断する
低リン血症と判定するための年齢別の基準値を示す(施設間での差を考慮していないので、参考値である)
血清リン値(示した値以下を低リン血症と判定する。)
1歳未満 |
4.5mg/dL |
1歳から小児期 |
4.0mg/dL |
思春期以降 |
3.5mg/dL |
高アルカリホスファターゼ血症
血清ALP |
1歳未満 |
1200IU/L以上 |
1歳から小児期 |
1000IU/L以上 |
|
思春期の成長加速期 |
1200IU/L以上 |
【骨軟化症】
大項目
a) 低リン血症
b) 高骨型アルカリホスファターゼ血症
小項目
c) 臨床症状
筋力低下、又は骨痛
(筋力低下の程度:しゃがんだ位置から立ち上がれない、階段昇降不可など)
d) 骨密度
若年成人平均値(YAM)の80%未満
e) 画像所見
骨シンチグラフィーでの肋軟骨などへの多発取り込み、又は単純X線像でのLooser’s zone
くる病・骨軟化症の病因鑑別フローチャート
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の治療法
<内科的治療>
リン製剤、活性型ビタミンD3製剤が使用されていますが、病因に基づく治療ではないため完治は難しいとされています。この治療の有害事象として下痢や高カルシウム血症による腎機能障害、二次性副甲状腺機能亢進症などが問題となることがあります。
腫瘍性ビタミンD抵抗性骨軟化症では腫瘍摘出が治療となり、これによって完治させることができます。
<整形外科的治療>
小児期からの適切な内科的治療は下肢の骨変形の予防や改善に有効であるとされていますが、変形が遺残する症例も認められます。変形の程度、年齢、ADLなどを考慮し手術の適応が決定されます。
術式としては、創外固定を用いた変形矯正骨切り術が一般的です。大腿骨、脛骨を骨切りし正常な重心が膝関節にかかるよう矯正します。
ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症の予後
現在の治療によりビタミンD抵抗性くる病患者の成長障害はある程度改善しますが、成人後も平均身長を下回る場合が多く認められます。小児では、診断が遅れると成長障害がより深刻になるため、早期診断、治療開始・継続が重要です。
ビタミンD抵抗性骨軟化症患者は、治療により筋力低下や骨痛が改善する場合が多いものの、服薬を中止できない場合が殆どです。
成人期以降も骨の石灰化障害は完治しないため、骨変形、病的骨折などのリスクがあります。また後縦靭帯骨化症の合併リスクが高いといわれていますので注意が必要です。
予後を規定する最大の因子は腎機能とされ、腎機能をモニタリングしながらの慎重な治療が必要です。
<リファレンス>
難病情報センター ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症(指定難病238)
生体内の石灰化機構 日腎会誌 2014;56(8)1196‒120
Nationwide survey of fibroblast growth factor 23 (FGF23)-related hypophosphatemic diseases in Japan: prevalence, biochemical data and treatment
Endo I, et al. Endocr J. 2015; 62: 811-816.